『鵞鳥湖の夜』黒鳥にも白鳥にもネオンの鮮血が!

鵞鳥湖の夜(2019)
原題:南方車站的聚会
英題:The Wild Goose Lake

監督:ディアオ・イーナン
出演:フー・ゴー、グイ・ルン、メイリャオ・ファン、レジーナ・ワンetc

評価:90点

第72回カンヌ国際映画祭に出品された中国ノワール。『薄氷の殺人』で第64回ベルリン国際映画祭・金熊賞を受賞したディアオ・イーナン監督作で話題となった作品だ。クラシカルでモダンなこの中国ノワールは、社会問題云々よりディアオ・イーナンの撮りたい画が優先された結果、視覚的快感しかない異常な作品となっていました。

『鵞鳥湖の夜』あらすじ


「薄氷の殺人」で第64回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した中国の気鋭ディアオ・イーナン監督が、中国社会の底辺で生きる人間たちの現実を鮮烈な映像で描いたノワールサスペンス。2012年、中国南部。再開発から取り残された鵞鳥湖(がちょうこ)周辺の地区で、ギャングたちの縄張り争いが激化していた。刑務所を出て古巣のバイク窃盗団に戻った男チョウは、対立組織との争いに巻き込まれ、逃走中に誤って警官を射殺してしまう。全国に指名手配された彼は、自身にかけられた報奨金30万元を妻子に残すべく画策。そんな彼の前に、見知らぬ女アイアイが妻の代理としてやって来る。鵞鳥湖の水辺で娼婦として生きる彼女と行動をともにするチョウだったが、警察や報奨金強奪を狙う窃盗団に追われ、後戻りのできない袋小路へと追い詰められていく。「1911」のフー・ゴーが主演を務め、「薄氷の殺人」のグイ・ルンメイ、リャオ・ファンが共演。2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。
映画.comより引用

黒鳥にも白鳥にもネオンの鮮血が!

ヤクザのバイク強奪大運動会の最中、阿部寛似の男チョウ(フー・ゴー)は警察を殺めてしまう。謎の女アイアイ(グイ・ルンメイ)の手引きで逃げることになるが、逃亡先の鵞鳥湖は警察とヤクザが入り乱れ、誰が敵だが分からない。彼と彼女は束の間の、追いつ追われつをしながら、敵を倒し脱出の道を探す。ヒッチコック的怒涛の巻き込まれサスペンスにホークスの群れの中を手繰るように主人公へ迫るカメラワーク。『犯罪王リコ』的影や編集の美学といったクラシカルなテクニックを余すことなく使い、そこへ中国のネオンや小道具、奇怪な動きを織り交ぜ、ひたすら楽しいを焼き付けるある種の開き直りに感動を覚える。

特に、本作において《覗き》の描写が魅力的である。冒頭の、柱の陰から人を監視するチョウ。すっと彼が引くと、紅の服に身を包んだアイアイが現れる。タバコの火を貸すと、妻の代理で来たと語り始める。そして常に警察に怯える彼と、飄々とタバコを咥える彼女を様々な角度から仕留める。《覗き》によるドキドキを熟成させたショットと言える。また、屋台街で取り敢えず麺を食べながら警察とヤクザを見極めようとする中で、銃撃戦が始まるのだが、警察もヤクザも敵の正体が分からず困惑する。アイアイはヒステリックな仕草で無数のバイクを押しのけ、影絵のようにぬぅと人影が出る屋台の裏側を彷徨う様子に、《覗き》から《覗かれている》恐怖へと変わっていくスマートさが滲み出ている。他にもアパートのから下を覗き込むと口論が勃発しており、階下に何かが落ちるところ、遊園地のカラクリ人形が回る中、敵を探そうと鋭い眼光を魅せる場面など、全編余すことなく、ヒッチコック的目線のサスペンスにホークスやフォード的群れのアクションを邂逅させていく姿に理論とセンスを感じました。

最近、このような撮影欲求を原動力にしたハッタリのアクション映画少ないだけに新鮮でした。

※thatsmags.comより画像引用

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