【YIDFF2021】『光の消える前に』モロッコ映画のもがき

光の消える前に(2020)
Before the Dying of the Light

監督:アリ・エッサフィ

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

山形国際ドキュメンタリー映画祭でモロッコの作品『光の消える前に』を観ました。本作はMUBIで配信されている『いくつかの無意味な出来事について』のフッテージを使用してモロッコ映画史を分析する作品なので予習して観ました。

『光の消える前に』概要

1970年代のモロッコでは、労働者や学生による自由主義運動の高まりに呼応するように、芸術家たちによる前衛的な表現活動がさまざまな領域で展開した。しかしこれらの運動は強権的な当局によって弾圧され、人びとの記憶から消されてしまうこととなる。本作は、近年スペインでフィルムが発見されたモスタファ・デルカウイ『いくつかの無意味な出来事について』(1974)のフッテージを中心に、当時の写真やポスター、雑誌、音楽を自在につなぎ合わせたコラージュとして提示し、沈黙を強いられ、存在すら消された芸術家たちへ熱いオマージュを捧げる。

※山形国際ドキュメンタリー映画祭サイトより引用

モロッコ映画のもがき

自由主義運動が高まりをみせる中、モロッコの若者たちは文化の力を信じていた。例えば、映画という資格メディアはモロッコ社会を変えるかもしれないと若者は街へ飛び出し人々にインタビューを始めた。しかし、当時のモロッコの映画料金は高く、あまり映画に興味を持ってもらえない。モロッコが自国で映画を作ることにあまり関心がないのだ。それでも若者はカメラを向ける。だが、人々は政治の話になると、「ノーコメント」と言う。ここでのコメントによって政府から嫌がらせを受けるのを避けたいからだ。

一般的にアフリカの映画史は、テレビ用のドキュメンタリー、短編映画の製作から始まり長編映画が誕生する流れを取る。アフリカ各国にとって、映画はニュースの働きを担うところから始まるのだ。本作は、そのニュース用ドキュメンタリーから長編劇映画へシフトする転換期を捉えたアフリカ映画史研究者には貴重なドキュメンタリーとなっている。

『いくつかの無意味な出来事について』をベースに、音楽や漫画の側面からも当時の熱気をモザイク状に散りばめる。そして、その動きの中で実験的に生み出されたモロッコ映画の映像文法を魅せてくれる。

例えば、男が逃げる。すると木々の狭間から大量の警察が現れる。男は引き返して逃げるが、射殺される。その切ない死は、サイレントでありながら強烈なインパクトを観る者に与える。また、別の映画のフッテージ。コメディ映画のフッテージでは辛辣なギャグが展開される。『カサブランカ』が好きだと語る男に対して、女性が「ところであの白い家(カサブランカ)は性転換クリニックよ。」と言うのだ。

正直、アフリカ映画史を軽く押さえていたり、『いくつかの無意味な出来事について』を観ていないと分かり辛い程にとっ散らかったモザイクドキュメンタリーなのですが、個人的にはアフリカの映画祭事情なんか知ることができて面白かった。

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※MUBIより画像引用