『犬は歌わない』生類憐れみの令は反射する

犬は歌わない(2019)
SPACE DOGS

監督:エルザ・クレムザー、レヴィン・ペーター
出演:アレクセイ・セレブリャコフ

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ロカルノ国際映画祭(2019)にてISPEC文化特別賞、ユース審査員賞を受賞した宇宙ドキュメンタリー『SPACE DOGS』を入手したので観てみた。本作はソ連が1957年に犬・ライカをスプートニク2号に乗せ宇宙に飛ばした件を扱ったドキュメンタリーであるのだが、何故か現在ロシアの野良犬の生活が挿入される謎ドキュメンタリーに仕上がっているとのこと。

日本では邦題『犬は歌わない』として6月公開なのですが、これがトンデモ映画だったので紹介していきます。

『犬は歌わない』概要

宇宙犬として有名なライカはかつてモスクワの街角を縄張りにする野良犬だった。宇宙開発に借り出された彼女は宇宙空間に出た初の生物であり、初の犠牲者となった。時は過ぎ、モスクワの犬たちは今日も苛酷な現実を生き抜いていた。そして街にはこんな都市伝説が生まれていたーーライカは霊として地球に戻り、彼女の子孫たちと共に街角をさまよっているーー宇宙開発、エゴ、理不尽な暴力、犬を取り巻くこの社会をソ連の宇宙開発計画のアーカイブと地上の犬目線で撮影された映像によって描き出す。

※Filmarksより引用

生類憐れみの令は反射する

ライカは生存の保証がないまま宇宙に飛ばされ、地球史上初めて地球を周回した動物になった。映画は、そのライカの魂が今のロシアの犬たちに引き継がれているかのようにロシアの野良犬の生活が映し出される。本作はソ連の宇宙開発に関するドキュメンタリーとしてみると肩透かしを食らうことでしょう。

何故ならば映画の大半を、野良犬が徘徊する映像が占めているのだから。

だが、これは人間の欺瞞を抉り出す内容となっており、油断する者に鋭利なナイフを突き刺すものとなっている。ライカの可愛げな表情。我々はライカが死ぬ未来を知っている。だから可哀想だと思う。その気持ちは野良犬に向けられる。街を徘徊し、微かな残飯を漁る。薄汚れた犬の旅に、ライカの死が過ぎり憐れみの目を向けることでしょう。

しかしながら中盤、突然二匹の犬は白猫を追い回す。そして、ガブリと猫の首に噛みつき抹殺してしまう。これは、食料に飢えた犬の本能的活動なのか?そう思っていると、犬は全然猫を食べないのだ、弄ぶように噛みつき血だらけにさせ、去っていく。吐き気がする程の残忍なシーンを目の当たりにして気づく。

我々が「可哀想」だと思う気持ちは欺瞞なのではないだろうかと。

ここで本作の主軸はソ連の宇宙開発の外側にある人間の自己中心的な心理にあることが分かってくるのだ。正直、この一撃必殺を描く為だけにあるので、映画全体としての強度は弱く。短編ドキュメンタリーの方が良かった気もする。しかし、ユニークな視点を持った本作に私は圧倒されました。

※MUBIより画像引用