【 #サンクスシアター 23】『蹴る』障がい者スポーツにある課題点

蹴る(2018)

監督:中村和彦

評価 :70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

サンクスシアターで電動車椅子サッカーW杯を捉えたドキュメンタリー『蹴る』を観ました。本作は、ヨコハマ・フットボール映画祭の知り合いからオススメされた映画だったものの公開当時観に行けなかった作品。そして公開当時観なかったことを後悔しました。我々が知っている気になっている闇についてのドキュメンタリーだったのです。

『蹴る』概要

電動車椅子サッカーW杯に出場すべく奮闘する選手たちに6年にわたり密着したドキュメンタリー。重度の障がいを抱えながらも電動車椅子サッカーに人生を懸ける選手たち。難病であるSMA(脊髄性筋萎縮症)により、生涯一度も歩いた経験はないが、試合では華麗で激しいプレーで観客を魅了する永岡真理。筋ジストロフィーのため呼吸器が手放せず、食事を摂ることもつらいが、電動車椅子サッカーで国内屈指の実力を誇る東武範。日本代表を目指して日々奮闘する選手たちの姿を追い、競技にかける彼らの思いや日常生活での苦悩や恋愛模様など、さまざまな切り口から彼らの生きざまを描いていく。監督は「プライド in ブルー」「アイコンタクト」など障がい者スポーツドキュメンタリーを手がけている中村和彦。

映画.comより引用

障がい者スポーツにある課題点

東京国際映画祭になどで、障がい者スポーツのCMを目にする。漫画調になったりして、障がい者をカッコいいヒーローとして描いているのが特徴的だ。ブラインドサッカーを始め、少しずつこの手のスポーツの認知度が高まってきたと思うが、明るい部分だけではない。本ドキュメンタリーは電動車椅子サッカーにフォーカスをあてているのですが、劇映画とは違いひたすら被写体の翳りや葛藤を捉え続けている。

障がいには程度がある。一応、電動車椅子サッカー協会(FIPFA)の規定には「FIPFAに登録された選手は、単に運動能力を阻害する障害の程度が少ないことで好成績を残すことがあって はならない。」とあり、ルールは定められているものの、勝つための試合となるとどうしても厳しい現実が出てくる。

「体力がある者を優先的に選抜する。」と直接言う場面があるのだ。

そして、選手も世間からは「障がい者」という雑な括られ方をされるが、競技に打ち込む程に、障がいの差が見えてくる。障がいが原因でコミュニケーションが上手くいかなかったり、障がいの差で良い結果を出せない時もある。そのモヤモヤの積み重ねで「やってらんねー」と匙を投げてしまう選手が出て来たりもするのだ。

我々健常者が想像する、障がいを友情努力勝利の方程式で克己する物語はここにない。そんなのは24時間テレビが厚かましくやっているのでそういうのを観たければ24時間テレビを観れば良いだけだ。本作は、わかっているつもりでまったく知らない、障がい者の苦悩に歩み寄り現実の問題点を浮き彫りにさせた貴重なドキュメンタリーと言えよう。観て正解でした。

※映画.comより画像引用

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