【 #サンクスシアター 17】『あいが、そいで、こい』昭和の尾を引く平成の青き夏

あいが、そいで、こい(2018)

監督:柴田啓佑
出演:小川あん、髙橋雄祐、長部努、廣瀬祐樹、古川ヒロシ、中垣内彩加etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

Mini-Theater AIDのリターンであるサンクスシアターの期限があと1ヶ月に迫り、残り50本近く枠がある私は焦燥に焼かれそうである。よりによって本業は繁忙期につき中々定時で帰れず、また来月頭には世界遺産検定も控えているので、いかにスマホに時間を奪われないかが勝負の鍵となっている。『ハーメルン』、『心』、『Plastic Love Story』、『蹴る』、『東京人間喜劇』、『ロマンス・ロード』、『五億円のじんせい』、『AMY SAID』、『ニブロール』、『コンシューミング・スピリッツ』はなんとかして観たいところだ。

さて、『あいが、そいで、こい』を観ました。本作は知り合いが定期的に運営している映画イベント映画遠足で存在を知っていた作品。予告編からして面白そうな予感がぷんぷん匂っていた。これは暑い夏迫る今にぴったりな映画でありました。

『あいが、そいで、こい』あらすじ

「カメラを止めるな!」を生み出した映画専門学校「ENBUゼミナール」のワークショップ「シネマプロジェクト」の第8弾で製作された2作品のうちの1作。短編「ひとまずすすめ」が国内の多数の映画祭で受賞を果たした柴田啓佑監督が、ある海辺の田舎町を舞台に、それぞれの問題を抱える男子高校生たちが、イルカの調教師を夢見る留学生と出会ったことから始まる、夏の初恋の物語を描いた。2001年の夏、海辺の田舎町に住む高校生・萩尾亮は、同級生の学、小杉、堀田ととも高校最後の夏休みを過ごすことに。そんなある日、イルカの調教師を目指して台湾からやってきたという留学生の少女リンと出会った亮だったが、イルカと海が大嫌いな亮はリンと対立してしまい……。

※映画.comより引用

昭和の尾を引く平成の青き夏

あなたにとって2001年とはなんだろうか?ノストラダムスの大予言が外れ、人類は21世紀に突入した。新時代の幕開けの希望を感じる人もいれば、就職氷河期暗黒時代の色もある。昭和が終わり、時代は平成カラーに染まりつつある一方で、どこか昭和の尾も引く。そんな2001年の色彩をギュッと濃縮させた青春映画『あいが、そいで、こい』は単に青春のみずみずしさをキャンバスに塗りたくっている訳ではなく、ジョン・フォード映画のような群れの連動、画面の奥行きを自分のものとして視覚的魅力の限界に挑んでいる。それだけに、映画を観ている快感が、青春の爽快さと融合し、感動すら覚える。

まず、学外活動を命じられた男子高校生が仲間を道づれにしようとする。肩を叩き、青々としたバックと、日陰のコントラストの中で、女の子がいるであろう学外活動に想いを寄せる。男子高校生特有の、軽く暑苦しい間合いの連動が伝わってくる。そして、それに対して女子とは微妙に間を置く。これは思春期男女の、恥じらいを強調している。同性同士だと暑苦しくイキって接触するのに、女子が相手だと妙な間が生じ、それが時として軋轢を生んだりする。

そして、群れてある方向に歩くシーンでは、フォーカスを当てたい人物と、その人物の内面の自問自答を外部化する為の他者を群れから引き剥がす。かと思えば、群れを狭い場所に集めて恋バナをさせて、恥じらいからその空間を脱出する描写を仕込んでくる。

こうした丁寧な群れ描写の連動が、高校生特有の葛藤を映画的に捉えている。

そして、何と言っても本作最強なのは、ツンツンしている台湾留学生ワン・ジャーリン(小川わん)と萩尾亮(髙橋雄祐)の心の壁が崩壊する場面。萩尾は、ワンにイルカガイドがイマイチだったと語る。そして不器用ながらも、互いに距離を詰めていくと、彼女はカナヅチである萩尾を海に連れていこうとする。日陰の暗がりから、広がるように海に出て、揉めながらも海へ近づいていく場面は『捜索者』を彷彿とさせるダイナミックさがある。あちらが陰と赤のコントラストなら、こちらは陰と青のコントラストと言えよう。

最近の青春映画では見かけなくなった『チルソクの夏』のような陽光の中で、ひたすら汗臭さある高校生の間合いある動きに興奮しました。

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