【中央アジア今昔映画祭】『少年、機関車に乗る』土食べ食べ少年はどこまでも

少年、機関車に乗る(1991)
原題:Братан
英題:BRATAN

監督:バフティヤル・フドイナザーロフ
出演:チムール・トゥルスーノフ、フィルズ・ザブザリエフ、N・タバロワ、R・クルバノフ、N・ベグムロドフetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ユーロスペースで開催中の中央アジア映画祭。本祭ではVHS時代の人気作『少年、機関車に乗る』が上映されている。VHS時代の日本はアグレッシブにワールドシネマを紹介していた時期があり、タジキスタンのバフティヤル・フドイナザーロフ作品もVHS化されていた。TSUTAYA渋谷店では『コシュ・バ・コシュ/恋はロープウェイに乗って』が4本ぐらいあり推されている。話を戻そう、今回は傑作と名高い『少年、機関車に乗る』を観たのですが、リマスター版らしく綺麗な映像でタジキスタンの列車旅を満喫することができました。

『少年、機関車に乗る』あらすじ

仲間と悪さをして過ごす17歳のファルーと、土を食べる癖を持つ7歳のアザマットの兄弟は、祖母と3人暮らし。兄弟はある日、遠くに住む父親に会うため機関車に乗って旅に出る。トラックとの競争や、ポットをたくさん持った変なおじさんの出現、悪ガキの襲撃などなど、機関車はハプニングに遭遇しながらもガタゴトと走っていく。

※中央アジア今昔映画祭より引用

土食べ食べ少年はどこまでも

パイプのようなものに語りかけて、その反響でキャッキャ遊ぶ。土をおもむろに食べる。スマホがなく、娯楽を外で自分で生み出していた時代。土を食べるのが癖なアザマットと兄は遠くの父の元へ向かうため、機関車に乗る。まるでリュミエール『ラ・シオタ駅への列車の到着』や『荒武者キートン』のようにかつて人々が映画や列車にロマンを抱いていた100年前の質感で描く。機関車から外を見つめる、雄大な自然に、橋からは少年たちが「機関車だ機関車だ」と覗き込む。中には、機関車に夢中となり玉突き事故を起こしている群れがある。技術に対する人々の素朴な好奇心を余すことなく捉える。また、荒々しい環境が突如現れるタジキスタンの風景が妙なスリルを紡ぎ出し、例えばポットを運ぼうと小屋に入ったおじさんの通路は、穴だらけのダンジョンとなっており、穴に落ちないようにそろりそろりと歩くも、ポットを落としてしまったりとハラハラドキドキさせられる。橋も足の踏み場がないほど朽ち果てたものが登場し、何食わぬ顔で歩いて会話するシーンなんかが登場する。アザマットは、本能的な人物で危なっかしい。休憩中の機関車に対して、「ボク、操作方法わかるよ。ボタン押してみるね。」と機械を動かし始めると、機関車が暴走し始める。運転手は何故か機関車そっちのけで追いかけっこを始めてしまう。バフティヤル・フドイナザーロフ28歳でここまで自由でユニークな映画を作るとは驚きであった。そして、よくよく思い返して観ると、兄弟の帰省、実は兄弟はあまりよくわかっていないが相当悲しい物語だったのではと思わずにはいられない。

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※中央アジア今昔映画祭より画像引用