【 #サンクスシアター 8 】『お嬢ちゃん』美人という仮面に封殺された者

お嬢ちゃん(2018)

監督:二ノ宮隆太郎
出演:萩原みのり、土手理恵子、岬ミレホ、結城さなえ、廣瀬祐樹etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

Mini Theater AIDのリターンであるVODサンクスシアター。私は80本観られることになっているのだが、サボりにサボって未だに7本しか観ていない。MOTTAINAIとどこぞのワンガリ・マータイさんが言いそうなので、3月はサンクスシアター配信の日本映画に力入れたいと思っています。さて今回『お嬢ちゃん』を観ました。異様に高評価で、日本映画をあまり観ない私の友人も絶賛していたので、景気づけに観てみました。これは凄いことをしている作品でした。

『お嬢ちゃん』あらすじ

大ヒット作「カメラを止めるな!」を生み出した映画専門学校「ENBUゼミナール」のワークショップ「シネマプロジェクト」の第8弾で製作された2作品のうちの1作。俳優として活動するかたわら映画監督として作品を手がけ、劇場デビュー作「枝葉のこと」が第70回ロカルノ国際映画祭のコンペティション部門に出品されるなど、国内外で注目される新鋭・二ノ宮隆太郎が、夏の鎌倉を舞台に、ひとりの若い女性の生き方を描いた。鎌倉に暮らす21歳の女性みのりは、観光客が立ち寄る小さな甘味処でアルバイトをしながら生活していた。一見普通の女性に見えるみのりだが、実は彼女は普通ではなく……。

※映画.comより引用

美人という仮面に封殺された者

本作は、日本の「事なかれ主義」に鋭利な刀をブスッと突き刺す猛毒作だ。エリック・ロメール調の淡いキャンバスに滲み出る凶悪な閉塞感は、観る者の深層心理にある邪悪な何かを刺激することでしょう。

主人公、みのり(萩原みのり)は観光地の甘味処でバイトする美人な大学生。しかしながら、彼女は目の前にある不条理には我慢できず、友人がチンピラに襲われようものならそのチンピラに噛み付く。コンパで、嫌な想いをしているのにそれをひた隠しにしてまたコンパに行こうとしている状況にも物申す。通常でなら、空気の読めない人として人間関係が絶たれて終わるのだが、彼女は「美人」という仮面をつけられているため、どんなに嫌なことを拒もうとしても粘着質に彼女をなだめることでその場に留めようとする。

その意図は様々だ。男はS属性という性癖を癒す為。女からは、美人でいる彼女を媒体にイケメンを釣ろうとしているからだ。本作が面白いのは、通常であれば美人が自分より容姿が劣っている人を媒体に自分を輝かせがちなのだが、その逆でも凶悪なのでは?と問題提起していることにある。自分より美人をコンパに呼び込むことで、イケメンを集め、そのお零れをもらう。結局、彼女を外見でしか見ていない。モノとしてしか見ていない様子を告発しているのだ。

その一方で男性サイドは、パワハラセクハラしていてもその暴力に気づかず武勇伝として周囲に話してドン引きさせてしまう様子を生々しく描いている。若干、問題提起の矢が多過ぎて交通渋滞を起こしているような気がするが、目の前で起きている凄惨な出来事を、やんわり隠蔽してしまう様子。それに物申す人が封殺されてしまう様子を、日本の閉塞感ものにありがちな薄暗い世界から飛び出た場所で描いてみせる大胆さに二ノ宮隆太郎の才能を感じました。

今、いたるところで起きていて、それが巨大化し、遂には誰も求めていないのに誰も止めることができない東京五輪開催に発展している日本を象徴したような辛酸戯画と言えよう。

サンクスシアター関連記事

【 #サンクスシアター 1】『旧支配者のキャロル』撮るか撮られるか映画撮影は魔界の儀式
【 #サンクスシアター 2】『OUR CINEMAS』À la recherche du temps-cinéma perdu
【 #サンクスシアター 3】『螺旋銀河』Synonymを求めAntonymと対峙する
【 #サンクスシアター 4】『遭難フリーター』闇が生まれる瞬間を見た
【 #サンクスシアター 5】『ざくろ屋敷 バルザック『人間喜劇』より』:半過去のアニメ
【 #サンクスシアター 6】『豆大福ものがたり』豆大福が出馬!汚職に賄賂にてんやわんや!
【 #サンクスシアター 7 】『ウルフなシッシー』映画であることを諦めてしまっている

※映画.comより画像引用