【アカデミー賞】『少年の君』アジア映画におけるイジメ描写

少年の君(2020)
原題:少年的你
英題:Better Days 

監督:デレク・ツァン
出演:チョウ・ドンユイ、ジャクソン・イー、Fang Yin etc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第93回アカデミー賞国際映画賞ショートリストにノミネートされている中国・香港映画『少年の君』を観ました。本作は第15回大阪アジアン映画祭で上映されて評判が高かった作品でもあります。どうやら日本公開もするようですよ。

『少年の君』あらすじ

内向的な優等生ニエン(ジョウ・ドンユー)は、同級生たちから凄惨ないじめを受けている。ある夜、不良少年の喧嘩に巻き込まれたことからシャオベイ(ジャクソン・イー)と知り合う。優等生と不良少年という対極的な二人が、複雑な家庭環境で寂しい思いを抱えたまま孤独に生きるお互いを知るにつれて心寄り添っていく。お互いだけを信じる若さゆえのピュアさに心掻きむしられる。

デビュー以来、常にハイクオリティな作品を生み出し続け、その才能を高く評価されているデレク・ツァン。様々な困難を乗り越えてやっと公開にこぎつけた本作は、前作『七月と安生(英題:Soul Mate)』(OAFF2017)の根底にある流れを汲む“ソウルメイト”シリーズのスピンオフと言えるのでは。

20代後半になっても表情から立ち居振る舞いまで高校生を無理なく演じてしまうジョウ・ドンユーの年齢不詳さは見事。そして本作の大注目株はジャクソン・イー。この若き才能に溢れた俳優の細かい演技は目を皿にして観てほしい。怒りや悲しみを湛えた瞳の奥、顔の筋肉ってこんなにも細かく動かせるのかと思うほどの表情作りは驚愕もの。

※第15回大阪アジアン映画祭より引用

アジア映画におけるイジメ描写

日本の閉塞感ものの悪い傾向として、ひたすら陰惨に描くところがある。正直、「閉塞感が辛い」という誰でも分かる正論をドヤ顔で魅せられてもあまり面白くない。やはり映画としての魅せ方や視点を磨いてほしいと思うものがある。

アジアではここ最近、社会派とエンターテイメントの両立に注力しており、そのレベルの高さには驚かされる。例えば、東京フィルメックスで上映された『無聲』は聾唖学校で連鎖する暴力の歴史を禍々しく描いている一方で青春映画として、サスペンスとして観応えのある作りとなっていた。

『少年の君』は、衝撃的なシーンから始まる。いじめられっ子のフー・シャオディが階段から突き落とされる。校舎から生徒たちがふー・シャオディの姿を見つめる。ある者はスマホでパシャパシャ惨劇を撮る。だが、肝心な死体は観客に提示されない。敢えて提示しないことで、観客の内面にある野次馬根性を引き摺り出す。そして、フー・シャオディの骸に一歩、ニエン(ジョウ・ドンユー)が歩み出ることで、新たな犠牲者を予感させる。

案の定、次の標的は彼女になる。食堂で列に並んでいたら、パリピな女集団に囲まれて煽られる。成績優秀なのを妬まれているようだ。この学校は進学校であり、授業になると教科書が山を築き上げている。狭い机に、崩壊寸前の書類の山。僅かに残っているスペースで計算したり、情報を詰め込む。その中でいじめが発生していることを画で強調している。

そんな閉塞感を提示しながら、本作では彼女が不良少年シャオベイ(ジャクソン・イー)と出会う。いじめの用心棒的存在になっていくシャオベイとの情事が、複雑な閉塞感の藪の中でラブロマンスとサスペンスを行ったり来たりしながら135分物語を紡いでいく演出にパワフルさがある。確かに、ハマった映画かと聞かれたらあまりハマれなかった作品ではあるが、閉塞感一本で押し切ろうとする日本映画に辟易している私には嬉しい一本でありました。アカデミー賞っぽくない作品なのでノミネートするかは微妙ですがオススメです。

※映画.comより画像引用