【MUBI】『GAMAK GHAR』過ぎ去った過去は今よりも眩しい

GAMAK GHAR(2019)

監督:Achal Mishra
出演:Abhinav Jha, Mira Jha, Satyam Jha etc

評価:100点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

MUBIではインド映画特集が組まれており、インド初のカンヌ国際映画祭最高賞受賞作『下層都市』やサタジット・レイのマイナー作品、マニ・コウル作品など激レア映画が多数配信されている。その一本『GAMAK GHAR』があまりに素晴らしかったので紹介しようと思う。『CAT STICKS』と並ぶ2019年発監督デビュー作にして重要な2010年代以降のインド映画と言えそうです。

『GAMAK GHAR』あらすじ


In a north Indian village, a family reunites at their ancestral house to celebrate a new birth in the family. It’s a joyous, carefree occasion. Over the next two decades, through festivals and feasts, births and deaths, the film observes the house age, and the relentlessness of passing time straying and fraying familial ties.
訳:北インドの村で、家族が先祖代々の家に再会し、家族の新しい誕生を祝う。それは陽気でのんきな出来事だった。それからの20年間、祭りや祭り、誕生や死を通して、家の時代と、時の流れが家族の絆をもろにしていくことの容赦なさを観察する。
imdbより引用

過ぎ去った過去は今よりも眩しい

HIGH ON FILMSのインタビューによれば、Achal Mishraは侯孝賢や是枝裕和の映画、アミット・チョウドリの小説に影響を受けており、先祖代々の村の家を舞台にした映画を考えていた。実力の都合で躊躇している中、監督の家をリフォームする話が出てきて、そのリフォームを映画に取り込めないかと企画しました。脚本を練っていくうちに、単なる家の記憶ではなくこれまで記憶されてこなかった文化を捉えていることに気づいたとのこと。

そんなプロセスを経て作られたクロニクルはシンプルながらも観る者に圧倒的感動と切なさをもたらす。

1998年。親戚が一つの家に集まってくる。新しい家族の誕生を祝うためにだ。諍い一つの入る隙間がない陽光差し込む空間を子どもたちが縦横無尽に遊びまくる。男たちはカードゲームをしながら仕事や人間関係といった他愛もない話をしている。女性たちは料理の支度をしたり、赤子をあやしたり、「この子の名前どうしようかね」と考えを巡らせている。子どもたちはかくれんぼを始める。

いーち、にー、さーん

と少年が数を数えている。ある子は車の中に隠れる。すると親戚のおじちゃんが「何しているの?マンゴー食おうぜ!」と誘い、少年はかくれんぼそっちのけでマンゴーの方へと向かう。そしてカメラは、マンゴーを捉える。男たちがマンゴーの方へ歩いていくのだが、無邪気な子どもの手が先取りする。そんな遊び心が心地よい。

ゆっくりゆっくり、都会の喧騒、分秒単位で動く都市とはかけ離れた豊穣な時間の中で輝ける「家」の青春が紡がれていく。

2010年がやってくる。

雨が降り始める。陰鬱として空気流れる家であるが、家族はこの家で談笑を交わす。ただ、12年前の活気は少し失われたようだ。群れというよりか空間内に孤が目立つようになり、まばらな人をカメラは捉える。そんなカメラは2人の男に目をつける。彼らは昔話をする中で、祖父の日記と写真を読んで、見てノスタルジーに浸る。写真を易々と観客に提示することはしない。十分な溜めの時間を用意し、ようやく提示される写真は朽ちていて、家族の外にいる我々からはよく分からない。しかし、彼らにとってその写真は輝ける過去を思い出すツールとして機能するのだ。

2019年。

靄のかかった空間の中で仙人のような人がよろよろ起き上がり、家を掃除する。もはや誰も住んでいない「家」は廃墟となっており、あの輝ける日々は存在しない。リクシャーが到着して、おばあちゃんを乗せて去っていくと、遂にこの家から誰もいなくなる。そこへ、おじさんがゾロゾロ現れ、瓦を剥がし始める。この家は役割を終えたのだ。徐々に解体されていく家。家の死は、この空間にあった歴史をも無に返す。その姿に切なさを覚える。

我々は、この家に住んだこともこの家族との思い出もないはずなのに、まるで長年住んできた家が、故郷がなくなるような胸締め付けられる気持ちになるのだ。話としてはなんてこともないし、クロニクルとしてはあまりに陳腐なのにどうしてここまで心を掴むのか?それは余計な技巧に走ることなく、真っ直ぐに家と文化の関係性を見つめようとする姿勢が尊いからなのではないだろうか?

これは特集上映でもいいので日本上映してほしい。

皆さん、Ronny SenとACHAL MISHRAの名前覚えておきましょう。

参考資料

INTERVIEW WITH ACHAL MISHRA : “I WAS NOT JUST DOCUMENTING OUR HOUSE, BUT ALSO A CULTURE WHICH IS SLOWLY ERODING.”(2019/11/11,Ashwani Kumar Tiwari “त्रस्त”)

※imdbより画像引用

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