『プロミシング・ヤング・ウーマン』ナイスガイよさらば

プロミシング・ヤング・ウーマン(2020)
Promising Young Woman

監督:エメラルド・フェンネル
出演:キャリー・マリガン、ボー・バーナム、ラヴァルヌ・コックスetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、アカデミー賞前哨戦の一つである第78回ゴールデングローブ賞のノミネートが発表されました。その中で作品賞、監督賞(エメラルド・フェンネル)、女優賞(キャリー・マリガン)にノミネートされた作品があります。それが『Promising Young Woman』。ヴィジュアルからするとチャラい映画に見えるのですが、周りの評判が異様に高いので観てみました。なんとこれは2020年代の顔になりゆる代物でありました。

『Promising Young Woman』あらすじ

A young woman, traumatized by a tragic event in her past, seeks out vengeance against those who crossed her path.
訳:過去の悲劇的な出来事に心を痛めた若い女性は、自分の道を横切った者たちへの復讐心を募らせていく。

ナイスガイよさらば

2010年代は、 #MeToo運動やLGBTQの問題が活発に議論されていき男社会の映画業界が少しずつ変わっていった時代である。『ゴーストバスターズ』や『オーシャンズ11』などといった作品が男女入れ替えて製作されていった。しかしながら、正直、この手のリメイクは男女を入れ替えて、女性っぽい仕草をさせているだけで社会問題を映画が掬い取るには厳しいものがありました。しかし、これらの骸を乗り越えて2020年には『透明人間』といった傑作が生まれた。さて『Promising Young Woman』はどうか?

ズバリ『狼よさらば』から『天使の復讐』を経由して大幅なバージョンアップをしていると言えよう。

自分の身は自分で守る社会と、憎しみが新たな暴力を生み出す様子を描いた『狼よさらば』という作品がある。自ら悪に喧嘩を売り、自分の手で復讐することに生きがいを感じる男の話だ。ここで描かれる問題は後にアベル・フェラーラ監督の手によって男女を入れ替えた作品『天使の復讐』として描かれたり、エジプトのモハメド・ディアブがバスで痴漢にあった女性の復讐劇『Cairo 678』として描いたりとバージョンアップしている。ただ、これらの映画は男女を入れ替えて女性の問題としてだけで描いているところが強かったように思える。

『Promising Young Woman』の場合は、男女の枠組みを超えた善悪の彼岸に暴力の連鎖と快楽を引き寄せている。

クラブで女(キャリー・マリガン)が泥酔している。そんな彼女を遠くから男たちがニヤニヤと品定めしている。そして男が一人近づいて「家まで送ろうか」と優しい声をかけてタクシーに乗り込む。男は下心があるので、彼女を自宅に呼び込み、度数の高いであろうオレンジ色の酒を飲ませ、さらに泥酔させようとする。そして、彼女が「もう好きにして」とベッドで大の字になっているところに、彼が行為を始める。すると、むっくり彼女は起き上がり、シラフの顔で「テメェ何しているんだ?」と問い詰める。ナイスガイのふりをして近づいていく男の化けの皮が剥がれる瞬間を見計らって問い詰める処刑を人生の生業にしているのだ。そんな彼女の手帳にはびっちりとかつて抹殺してきたであろう男をカウントする線が引かれており、彼もその餌食となった。

何故、彼女はそんなことをするのか?

それは大学時代にレイプされたにもかかわらず黙殺されたせいで自殺したニーナの代わりに行使する復讐を行う為である。犯人に近づくために、関係者を血祭りに上げていくのである。ただ、それだけなら単なる復讐劇なのですが、本作ではその復讐する女の狂気にも鋭く触れている。これは、今やSNSで毎日どこかが炎上し、正義の鉄槌をくだそうとしてそれが暴力に発展していく様子を風刺しているように見える。結局暴力には変わりなく、何もしてやれなかったモヤモヤを復讐で贖おうと自己満足に陥ってしまっているのだ。

そして本作で登場する男は「ナイスガイ」を装う。気を使って、女性に優しいふりをして、その下にはゲスな心が渦巻いている。現代社会の心の裏表を、過剰な色彩と西部劇的さすらいが他者の領域に入っていき颯爽と復讐を果たす演出で描いている。

このドス黒い復讐譚は2020年らしい女性映画、いや人を描いた映画と言えよう。

観る者はギクリとされられ、グサリと心えぐられることでしょう。

日本公開はPARCOが配給権を買っているらしいのでそのうち公開されると思われます。

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