【ネタバレ考察】『TENET テネット』実はコロンブスの卵だったりする件

TENET テネット(2020)
TENET

監督:クリストファー・ノーラン
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、アーロン・テイラー=ジョンソン、ケネス・ブラナーetc

評価:|80|点(絶対値80点)

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2020年、コロナ禍により軒並み大作が公開延期し、映画ファンにとって祭映画が何ヶ月もお預けとなってしまった。そんな最中希望の星として2020/09/18に『TENET』が日本公開された。『インセプション』、『ダンケルク』で毎回賛否両論を巻き起こすクリストファー・ノーラン最新作だ。クリストファー・ノーラン映画は好き嫌いが分かれる。私も割と相性が悪いのですが、その相性の悪さはアルフレッド・ヒッチコックと似ている気がする。ヒッチコックは、「登場人物の行動原理を観客が気にする前に展開を与える」ことを美徳としており、よくよく考えるとおかしい行動が多い。つまりハッタリの監督だ。ノーランも一見理詰めの壮大映画に見えるが、実はスケールが小さく、ハッタリを利かせていたりする。それが気にならないぐらいの実写主義と視覚体験でゴリ押すのが華となっている。さて、クリストファー・ノーランは007シリーズのファンであり、今回は『メメント』的時間逆行を使い本格スパイ映画を撮ったとの一抹の不安を抱え、TOHOシネマズららぽーと横浜で有給取って観てきました。

結論から言うと、『メメント』レベルには及ばなかったものの、クリストファー・ノーラン映画の中ではトップクラスに好きでした。難解だと言われているのですが、正直クリシェの理論的積み上げを時間逆行のノーラン職人芸でゴリ押ししているだけなので、ネタさえ分かればコロンブスの卵。また、幸運にも彼がサム・メンデスの後継者となり007を撮る未来が来ていないことを嬉しくなるほど、007映画としては酷い作品である。いくら007あるある、クリシェだからといってA to Z語ることはあり得ないだろう。007の醍醐味、スパイ映画の醍醐味は、「よくわからないけど、インドへ行かないと行けないのね。世界を裏で救っているのね。」といった「空っぽの説明過多による魅力」であって、「アレは製造番号調べたらインドが怪しい、アレはアイツに渡すと良い。なぜならば、、」みたいな説明は、観客が壮大な陰謀に身を任せる幸福を奪っている。なんならスケールを小さくしてしまうのだ。さらに、ロジャー・ムーアボンドを意識させてか、ジョン・デヴィッド・ワシントンを急に戯けさせてユーモラスな会話をさせているのだが、このアクションに対して、周りの人が塩対応過ぎるまたは見得を切る《間》がない為スベっているようにしか見えない問題がある。このように、想定内の話と致命的なスパイ映画作劇が目立つ代物となっているのですが、それでも面白かった。ある意味、一時期、007が昨今の社会的背景を踏まえて黒人ボンドを作るといったトンチンカンなアイデアをクリストファー・ノーランが事前にシミュレーションしてくれたことも評価すべきポイントであろう。よくぞ避雷針になってくれた。なので、マイナス方向にもベクトルが存在する意味を込めて本評では|80|点(絶対値80点)と下した。

さて、ここからネタバレ考察として、そもそも『TENET』とはなんだったのかを順を追って語っていきたいと思う。

『TENET テネット』あらすじ


「ダークナイト」3部作や「インセプション」「インターステラー」など数々の話題作を送り出してきた鬼才クリストファー・ノーラン監督によるオリジナル脚本のアクションサスペンス超大作。「現在から未来に進む“時間のルール”から脱出する」というミッションを課せられた主人公が、第3次世界大戦に伴う人類滅亡の危機に立ち向かう姿を描く。主演は名優デンゼル・ワシントンの息子で、スパイク・リー監督がアカデミー脚色賞を受賞した「ブラック・クランズマン」で映画初主演を務めたジョン・デビッド・ワシントン。共演はロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、アーロン・テイラー=ジョンソンのほか、「ダンケルク」に続いてノーラン作品に参加となったケネス・ブラナー、そしてノーラン作品に欠かせないマイケル・ケインら。撮影のホイテ・バン・ホイテマ、美術のネイサン・クローリーなど、スタッフも過去にノーラン作品に参加してきた実力派が集い、音楽は「ブラックパンサー」でアカデミー賞を受賞したルドウィグ・ゴランソンがノーラン作品に初参加。
映画.comより引用

1.ヒッチコック的演出の妙

上記で、クリストファー・ノーラン映画はヒッチコック的と語ったが、本作では冒頭にその演出が顕著に観られる。舞台はオペラ会場。シャッターが閉まり始め、オペラ会場は閉ざされた空間となっていく。そんな閉ざされた空間を天井桟敷から重要人物と思しき存在が俯瞰して見ている。するとテロリストが襲撃する。そして、ジョン・デヴィッド・ワシントン演じる男が軍に起こされ、テロリストを殲滅しに会場へと入る。堅牢なシャッターのダクトに催涙ガスを流し込む。では、男もシャッターから侵入するのかと思いきや、部隊を抜け出して階段を上がる。そして天井桟敷にいる者とガラスを割って会場に雪崩れ込む。何やら爆弾らしきものを触って、何かを確かめている。どうやら男は部隊に潜入したスパイらしく、何名かの仲間と、戦闘のどさくさに紛れて重要アイテムを回収しようとしているらしい。壮絶な戦闘の最中、男は穴が巻き戻るのを目撃するが、その正体を掴めぬまま、敵に捕まる。そして、殺される瞬間に特殊な薬を飲んで目を瞑るところで「TENET」とタイトルが出る。

物語の途中から始まり、激しいアクションの中で伏線らしき謎を散りばめるアヴァンタイトルは観客に行動原理を考えさせる暇を与えない。ルドウィグ・ゴランソン(『クリード チャンプを継ぐ男』、『ブラックパンサー』等の作曲家)の緊迫の緩急を巧みに織り交ぜたサウンドが、観る者を映画という巻き込まれサスペンスの中へと突き落とす快感を与える。まさしく、ヒッチコックの怒涛の追いつ、追われつの関係が冒頭で示され、それは2時間半に渡って展開されることを示唆している。

2.『ラ・ジュテ』との関係

クリストファー・ノーランは親切だ。彼の映画は難解だと言われているが、前半に世界観やルールの説明が施される。『メメント』オープニングにおけるポラロイドカメラの描写や『インセプション』の記憶に入る際の掟説明など。さて、今回はアヴァンタイトルが終わるとすぐに、ルールの説明が始まる。壁が出現し、銃を構えると弾が戻るのだ。未来から送られてきた武器は第三次世界大戦を防ぐ為に必要だと言われる。そして、この時間逆行の現象は「エントロピーの減少」による者だと語る。物理のことはよくわからないが、この映画の中では物質がA→Bに遷移する状態は時間が一方通行の世界に生きる者にとって逆行しているように見えることを示しており、それをコントロールする者から攻撃されているらしい。そして、映画が進むと未来人がエネルギーを過去から奪取する為に攻撃を仕掛けており、通常攻撃をすると過去の時間の流れに逆らうエネルギーが必要となるので、世界全体の時間アリゴリズムを逆行させるアイテムを集めていることが分かる。

お気づきだろうか、これは短編映画『ラ・ジュテ』の設定そのものである。『ラ・ジュテ』では第三次世界大戦後の世界で、エネルギー不足を補う為、奴隷をモルモットにし時間旅行をさせる話である。『ラ・ジュテ』では未来人の視点から描かれたが、本作では過去の人の視点から映画が語られているのである。未来人の目的が2時間半かけてじっくりと紐解かれていく点において蝶番の関係と言える。

3.We live in a twilight world(黄昏に生きろ)

本作では、「TENET」以上のキーワードとして「We live in a twilight world(黄昏に生きろ)」というフレーズが使われる。これは、セリフにもあるようにウォルト・ホイットマンの詩が元となっている。彼の詩《A TWILIGHT SONG》は、南北戦争でアメリカ各地から集る名もなき兵士が無残に死んでいく様子を風化させないように、記録に残すことで後世を救おうとする詩である。つまり、このキーワードは名もなき兵士の中で、未来を救う者としての合言葉的役割を担っている。実際に、クライマックスではキャットのメッセージで、インド人バイヤーの妻プリヤー(ディンプル・カパディア)は殺される。未来人の中にも過去に埋めたい事実があり、それを司る者として主人公が人類の影ながらある者の為に記録を残す、あるいは残すように仕向ける役割を担っていることが分かる。

4.壮大な『メメント』演出

本作は、時間逆行する者の正体が掴めない状態から始まり、定期的に訪れる刺客と戦い暗中模索する。しかし、途中から、まるで『メメント』の終盤のようなどんでん返し、伏線回収が始まる。主人公が、《回転ドア》を使って逆行の世界に突入するのだ。すると、映画前半に出てきた時間逆行が主人公による影響だということが分かってくる。カーチェイスで、倉庫裏に不気味に止まる車から見えるマスクの男、不気味に高速道路中央で倒れている白い車の主、さらには空港で戦っている相手ですら主人公だったのだ。主人公からすれば、既に通ってきた道なので相手の行動は知っている。だからしぶといことが分かる。そして、回転ドアには必ず、反対側の世界が見せる鏡があり、序盤に語られていた、「同一人物による犯行」という伏線が回収されます。と同時に、相方ニール(ロバート・パティンソン)は最初から全て知っていたことも判明する。『メメント』で出世し、20年越しに、ビッグバジェットでノーランが『メメント』でさらにやりたかったことを実現しているようだ。飛行機大爆発よりも先に、壮大な『メメント』を映画にぶつけたかったことが分かるのです。そして、序盤のチュートリアルとしてのミクロな時間逆行、中盤の物語としての時間逆行、クライマックスの群れを使ったマクロな時間逆行と理論を発展させていく作劇は素晴らしいと感じた。

2.『TENET』に隠されたTENET暗号

ところで、TENETは公開前からラテン語の回文「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」から来ていると噂されてましたが、それは確信犯でありました。この5つの語は劇中に散りばめられているのだ。

SATOR=ケネス・ブラナー演じる悪役
AREPO=贋作画家の名前
TENET=劇中のキーワード
OPERA=冒頭の戦闘シーン舞台
ROTAS=贋作が保管されている倉庫を警備する会社の名前

最後に

クリストファー・ノーランはエンジニア気質な人なので、なんでも定義して説明しないと気が済まない人である。それ故に、007的な「よくわからないが巨大陰謀と戦っている」というクリシェは、親切な説明により悪い方向に崩され、スケールが小さく見えてしまった。彼の親切さと言えば、逆行世界に入ると、必ず音楽が逆再生の音になるところとかもとても丁寧だと感じた。悪いとこはあれども、観客に息をつかせまいと次から次へとネタを展開し続けていく演出はやっぱり面白かったし、序盤のオペラ座でのシークエンスを観ると、彼のハッタリやらの共犯者になりたくなる。だから、ストーリー的にはダメでも私は擁護したいと思う。

また、ヒールを履いたエリザベス・デビッキのあり得ないくらいの高身長っぷりと、そのアンバランスさから来る動きのぎこちなさが本作に蠢くぎこちなさ魅力的にするスパイスになっていたと思う。セイター(ケネス・ブラナー)に彼女がローションのシーンに時間をかけまくる場面の変態性も間抜けなのだかガチなのか分からないシュールさがあってよかったと思う。

と言うわけで、IMAX『TENET テネット』観賞にお腹いっぱいなブンブンなのでした。

クリストファー・ノーラン記事

クリストファー・ノーランと私
【 #死ぬまでに観たい映画1001本 】『メメント』逆行する時間、直進する時間※ネタバレ
【ネタバレなし解説】「ダンケルク」エースコンバット好きはIMAXど真ん中で観てくれ!!
ノスタルジックな映像体験「インターステラー」プラハのIMAXシアターCINEMA CITY FLORAにて

※IMDbより画像引用

訂正(2020/09/19)

てっきり天井桟敷にいた男がニールだと思っていたのですが、読者から違うよとご指摘受けましたので修正しました。ご報告ありがとうございます。1回目の観賞では、追いきれない部分があります。今度、観て確かめることにします。

ブロトピ:映画ブログ更新
ブロトピ:映画ブログの更新をブロトピしましょう!