『イルマ・ヴェップ』映画理論拗らせアサイヤスは素晴らしい

イルマ・ヴェップ(1996)
IRMA VEP

監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:マギー・チャン、ジャン=ピエール・レオ、ナタリー・リシャールetc

評価:90点

先日、Bunkamuraル・シネマのオリヴィエ・アサイヤス特集で『イルマ・ヴェップ』を観てきました。映画監督が大好きな、映画の内幕を描いた作品なのですが、アサイヤスは、まさかのルイ・フイヤード『吸血ギャング団』のリメイクを試みる現場というニッチすぎる土俵を作り出し、自分の映画論を語りまくっていました。

『イルマ・ヴェップ』あらすじ


香港の映画女優マギーは、新作映画“イルマ・ヴェップ”撮影のためパリにやって来た。しかし監督ルネがノイローゼ気味で、撮影は進まない。ルネの話を聞かされるうちに混乱してきた彼女は、映画の衣装を着て盗みを働いてしまう……。香港映画界のトップ・スター、M・チャンを招いて作られた異色のカルト・ムービー。
Yahoo映画より引用

映画理論拗らせアサイヤスは素晴らしい

オリヴィエ・アサイヤスは、映画理論を拗らせた映画を作ると面白い。ということは、『パーソナル・ショッパー』で感じたところだ。スマホを使ったストーカー幽霊理論には感動を覚えました。

そんな彼が、理論をこねくり回した『イルマ・ヴェップ』は異常だ。ルイ・フイヤードの『ファントマ』をリメイクした件に対して、昨今のリメイクブームと映画関係者内部の冷めた感情を重ね合わせ、『吸血ギャング団』をリメイクする内幕を描くハイレベル過ぎる映画監督かく語りき映画。冒頭、撮影で使う銃をたらい回しにしていくところから、これは映画関係者が複雑な人間関係を通じて、どう考えても駄作にしかならない企画を完成させようという気概を滲ませる。しかし、この企画、どうにも沈没の運命から逃れそうにない。

監督はマラケシュで観た香港アクションで観たマギー・チャンに惹かれ、彼女をイルマ・ヴェップに抜擢する。スタッフ間の仲は険悪で、蹴落とし合いが繰り広げられる。

映画はサイレントで作られるが、これが微妙過ぎる。アサイヤスは、ポンコツな映画を演出するというところに全力を注ぐのだ。

そして、何故彼がサイレント映画を映画理論語りの的に選んだか、何故マギー・チャンをヒロインに選んだかが分かってくる。それは、映画という視覚メディアによって国境はなくなることである。本来の映画は、字幕がなくても成立するし、優れた映画は字幕の壁を越えられる映画なのだと。

それなのに、映画人は常にマウントを取り合い、壁を作ってしまう。マギー・チャンという異国の目線からフランス映画界を俯瞰し、そこに映し出されるシネフィルアート映画vs大衆映画なんかの下らない対立に雷を放ってみせるオリヴィエ・アサイヤスの手腕にひたすら惚れ込みました。

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