【 #死ぬまでに観たい映画1001本 】『最後の人』映画は元来エスペラントだ!※ネタバレ

最後の人(1924)
原題:Der Letzte Mann
英題:The Last Man

監督:エミール・ヤニングス、マリー・デルシャフト、マックス・ヒラーetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『死ぬまでに観たい映画1001本』掲載の『最後の人』がMUBIにて配信されたので観てみました。本作はアルフレッド・ヒッチコックが『映画術』の中で絶賛した作品。彼に言わせれば、「無字幕で完全な映像化に成功した唯一のサイレント映画は、エミール・ヤニングスが主演した『最後の人』だけだと思う。」とのこと。ヒッチコックは続けて、「『最後の人』でムルナウがやろうとしたことは、映画においてエスペラント語を使って国際的な統一言語を確立することだった。たとえば、道路標識や貼札や店の看板に至るまで、すべてが国際語で書かれていた。」と述べている。そして、彼によればサイレント映画時代に「映画」は映画的表現の極致に達していたにもかかわらず、トーキーがそれを邪魔してしまったとのこと。ヒッチコックは下積み時代に、サイレント映画の字幕製作に携わっており、勝手に内容を変えたり、クライマックスのシーンを冒頭に繋いだりしながら映画的表現を模索していた。そして、彼の映画は「画」で勝負するので非常に説得力のある論である。ということで、今回はネタバレありで本作について語ります。

『最後の人』あらすじ


大都会ベルリン。大通りに面した宮殿の様に立派なホテルの豪壮な玄関に年老いた門番が立っていた。彼は金ピカの制服を着て得意然としていた。彼はがっしりとした大男で軍人らしい頬髭をはやしていた。彼は将軍にも見まほしい我姿に誇りを感じ、金モールの制服を何よりも愛した。彼はこの姿で裏町の我家に帰って来る時程幸福なことはなかった。悪戯小僧達が羨望の眼を以て彼を仰ぎ見るから。しかるに些さの負傷と老齢との故を以て彼は門番の制服を奪われ、地下室の浴場係に左遷された。彼は何よりも金モールの制服を着ないで家に帰らねばならないのが悲しかった。彼は制服を盗んでまでも着ようとした。しかしそれも裏町の人々が事実を知っては唯嘲笑の的となるばかりであった。彼は苦しみ歎いた。そこへ運命はこの老人に遺産を授けた。役は一躍して門番どころか富豪として立派な服を着ることが出来た。彼はシャムパンの盃を傾けながら心ゆくばかり笑った。かくて歓びの笑いの中に彼は死んで行くのであった。
映画.comより引用

映画は元来エスペラントだ!

雨で道は濡れている。普通だったら人は嫌な顔をするというのに、恰幅の良い巨漢なホテルマンはニコニコしながら門番をしていた。彼は自慢の制服を着て、お出迎え/お見送りをしている。誇りを持って仕事に励んでいるのだ。傘を持っていない女性に対しては、あらよっと傘を開く。両手に花。女性に腕を掴まれながらお見送りをするのです。そんな幸せに満ちた画は突然奈落に落ちる。ある日、男が仕事場に行くと、いつもいる場所に別の男がいるのだ。このシーンが非常に素晴らしいので注目していただきたい。

回転扉越しに、遠くでお見送りしている新門番が見える。彼を追って男が外へ出る。しかし、彼は無視して回転扉の方へやってくる。男も負けんと回転扉の方へやっていくと、あれだけ巨漢に見えた男よりも新門番の方が巨大なのだ。この遠近法を使って、敗北が現実的になっていく演出は、ヒッチコックが本作を《エスペラント語》に例えることに説得力を与える。

制服剥がされたらただの人という現代にも通じる普遍的哀愁が立ち込める中、男は誇りを取り戻すために制服を盗みにホテルへ向かう。その目標はかない、F.W.ムルナウの幻想的な演出で束の間の夢が描かれる。突如FPS視点になったり、強いボヤかしから若干薄めていく、夢を認知している時の再現、そして『サンライズ』でも使用された強烈な多重露光で彼の幸せが描かれる。幸福を描けば描くほど、観客は切なさを感じていく。何故ならば、男は失った誇りを偽の誇りで癒そうとするのだから。

本作は奇妙なことにF.W.ムルナウとは思えない雑な急変を果たす。折角、束の間の幸福もへし折られ、便所で紳士の靴磨きをするという屈辱を噛みしめる場面を挟んでおきながら、突然億万長者になって豪遊騒ぎを始めるのだ。これはUFAのせいである。F.W.ムルナウの繊細さを知っている人ならがっかりするだろう。ただ、本作の軸となる幸福を描けば描くほど、制服を脱げば空っぽな男の哀愁が強まり切なくなる演出を考えると、この茶番のようなクライマックスは有効だと言える。

結局、あのに憎き新門番を蹴散らし、ホテル前に大勢の人を立たせお見送りさせる。そして門番が止めようとするもホームレスを受け入れ一緒に立ち去る姿は、男の夢と現実が邂逅したこれ以上にない悲哀妄想だろう。

サイレント映画苦手な私でもこの作品はとてつもなく面白かった。

改めてF.W.ムルナウの非凡さを感じ取りました。

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