『デリンジャーは死んだ』料理をしながら朽ちたリボルバーを解体する変態

デリンジャーは死んだ(1969)
原題:Dillinger è morto
英題:Dillinger Is Dead

監督:マルコ・フェレーリ
出演:ミシェル・ピコリ、アニタ・パレンバーグ、キャロル・アンドレetc

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

アテネフランセ開催の《中原昌也への白紙委任状》でマルコ・フェレーリの伝説的作品『デリンジャーは死んだ』が上映された。本作は、1969年のカンヌ国際映画祭に出品された作品。カンヌ国際映画祭粉砕事件で前年度は中止となってしまい、五月革命の熱気もあってかこの年のラインナップは『イージー・ライダー』や『Z』、『If もしも….(本祭パルムドール)』といった政治的作品、怒れる者を扱った映画が多い気がするが、その中でひっそりと変態的に輝いていた作品がこれなのだ。パールフィ・ジョルジュの『ファイナル・カット』でも引用された『デリンジャーは死んだ』を観てみました。

『デリンジャーは死んだ』あらすじ


しっかりしたアングルの中、演技でなく手持ち無沙汰で寛ぐ故Mピコリ。時折、低予算映画で背後に明らかにスタッフがいない場面(飛行機墜落事故の速報待ち報道部屋状態)を観る機会があるが、それが全編立派なスタッフで展開される無人の恐怖。デジタル撮影の到来を予言(?)した映画史に残るべき名作!
※アテネフランセサイトより引用

料理をしながら朽ちたリボルバーを解体する変態

工場で、マスクがもたらす没個性について語られる。そして、ミシェル・ピコリ演じる男が帰宅してから奇妙な一夜が幕を開ける。男は食事をしようとするが、美味しくなさそうな料理にげんなりする。プリンを必要以上に揺さぶるが、それでも食欲がわかず冷蔵庫に料理をしまう。しかし、おもむろに開いた本に肉の塊が載っていたことから、食欲がそそられ、料理をはじめる。観客は、彼のアクションするたびに寄り道する挙動不審さを指咥えて見守るしかない。彼の無軌道で、理解不能な行動は、緻密な連想によって構築されていく。このシュールでありながら理論的な物語の組み立てに好奇心が終始掻き立てられます。

男は、料理をはじめるのだが調味料が足りず探しはじめる。すると棚から本が雪崩となって散乱する。その過程で新聞紙に包まれたブツを見つけるのだが、すぐには開けない。まず新聞紙を広げる。そして、それを読みはじめるのだ。そこにはパブリックエネミーNo.1のデリンジャーに関する記事が書かれており、熟読する。時間をかけて紐を解くと、朽ち果てたリボルバーが出てくる。リボルバーに魅せられた彼は、料理をしながら解体作業をはじめる。料理と同列にリボルバーの解体が行われ、料理用の油にレモンを絞った代物をリボルバーの部品洗浄に充てがうのだ。

妻や家政婦には目もくれません。彼は己の欲望に従い、リボルバーを再構築していくのです。そこには、現代社会に通じる他者への無関心に対する風刺が込められている。今や、人々はスマホを暇さえあれば見る。食事中や友人とお話ししている時ですら、スマホに流れる膨大な情報についつい触れてしまう。そして自分の欲を一心不乱に満たす。冒頭で、マスクの没個性論について語った上で、男の奇想天外な生活が描かれるのだが、それは個性を求めて情報の渦に飛び込み、通俗で下品な人生に成り果ててしまう様を批評していると捉えることができるのだ。だからこそ、妻に電話がかかってきても棒で彼女の寝室を叩き、1階へ呼び寄せ、彼女がテレビを覗き込もうとすればシッシと追い払う描写や、彼女が脱いでも彼のスイッチが入らない限り興味のベクトルが彼女に向かない歪な夫婦関係に説得力があると言えます。

さて、本作のジャック・タチ的奇妙なモダンライフ像は不思議なことにまさしく今観られるべき作品に仕上がっている。マスク談義は当然ながら、家のホームシアターに闘牛場や海を映し出し、画面近くでフレームの中の世界に没入する。他者に目もくれず目の前のディスプレイにしか興味を見出せず、ディスプレイの膨大な情報から連想していき、個性的を装いながら通俗で下品な振る舞いをしていく。そして自分にしか興味がないため、肉体的交差ですら、精神的理解に繋がらない。

一見すると、ミシェル・ピコリのサイレント映画的荒唐無稽さが包み込むヘンテコ映画に見えるが、実は緻密な理論の積み重ねで描かれた鋭い風刺劇でありました。

P.S.本作は、女性を性的搾取の対象として描かれているため、今風の作品でありながらも今は作れない作品である。ただ、似たような骨格の作品はSTAY HOME時代に作れるのではないかと思う。今の映画作りにヒントを与える作品であることは間違いない。では、日本映画界において誰がこの手の作品を作れるのだろうと映画の後の呑みで議論になったが、残念ながらいなそうです。個人的には深田晃司あたりがいい線いっていると思うのだが、どうでしょうか?

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