『なぜ君は総理大臣になれないのか』善人は政治家に不向きという現実をどうみるか?

なぜ君は総理大臣になれないのか(2020)

監督:大島新
出演:小川淳也

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

あつぎのえいがかんkikiで映画仲間の間で密かに話題となっていた『なぜ君は総理大臣になれないのか』を観てきました。政治家・小川淳也を捉えたドキュメンタリーなのだが、正直本作を観るまで彼の存在を認知できていなかった。映画を観て、ようやく統計捏造を鋭く指摘したあの人だと思い出した程度。しかしながら、この危険で魅力的で、政治の厳しい側面を捉えた本作を面白く観た。当然ながら政治の話を交えながらの感想となるので、読む方は気をつけてください。

『なぜ君は総理大臣になれないのか』あらすじ


2019年の国会で不正会計疑惑を質す姿が注目を集めた政治家の小川淳也を17年にわたり追いかけたドキュメンタリー。2003年、当時32歳で民主党から衆議院選挙に初出馬した小川は、その時は落選するも、05年の衆議院選挙において比例復活で初当選。09年に政権交代が起こると「日本の政治は変わる」と目を輝かせる。しかし、いかに気高い政治思想があろうとも、党利党益に貢献しないと出世はできないのが現実で、敗者復活の比例当選を繰り返していたことからも発言権が弱く、権力への欲望が足りない小川は、家族からも「政治家に向いていないのでは」と言われてしまう。17年の総選挙では希望の党に合流した前原誠司の側近として翻弄され、小池百合子代表への不信感から無所属での出馬も考えた小川だったが、前原や地元の盟友・玉木雄一郎への仁義というジレンマに悩まされ、背水の陣で総選挙にのぞむ。映画では「シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録」「園子温という生きもの」、テレビでは「情熱大陸」「ザ・ノンフィクション」など、数多くのドキュメンタリーを手がけてきた大島新監督が、17年間追い続けた小川の姿を通して、日本政治の未来を問いかけていく。
映画.comより引用

善人は政治家に不向きという現実をどうみるか?

本作は単なる陰日向のヒーロー小川淳也を賞賛するPR映画ではない。いやひょっとするとPR映画にしか感じ取れない方もいるかもしれない。しかし、タイトルと映画のすみっコから投げられる友人・大島新の鋭い視線が、ミクロの立場からマクロの問題を浮き彫りにしていく。

小川淳也を撮り始めたのは、彼が32歳の時。香川から東京大学法学部に進学し、そのまま総務大臣政務官まで上り詰めた彼。将来安泰の地位を築き上げたにもかかわらず、そのレールから降りた。官僚の忖度でしか物事が進まず、国民に向いていない目に嫌気がさし、夢の総理大臣を目指し活動を始めたのだ。若さが取り柄だと、大げさな演説で支持者を集め爆走してきた。しかし、40代になり、彼は行き詰まる。志は良く、清らかだが、それが仇となり一切政界で出世できなくなってしまうのだ。そうです、政治家に必要なのは「悪」の使い分けだ。日本の政治家を見ればわかるように、忖度と利権の根回し、どれだけ市民を敵に回そうと心が折れない精神力が必要だ。その特性上「悪人」にならないといけない時があるのだ。日本のように内弁慶気質で、海外からは搾取されつつ、国内では権力者だけにヘコヘコし国民には傲慢な態度を取るポンコツさは救いようがないが、一応海外は上手く「悪」を使いこなしている。

ドナルド・トランプはAmerica Firstを唱え、国内産業を守るために中国や日本に圧をかけたり、他国の治安よりも自国だと軍事見直しを行ったりしている。コロナが蔓延した際に、最初はマスクをしていなかった彼も、トランプ支持者のノーマスク暴動を踏まえてマスクをつけたりと悪人として叩かれながらも、アメリカ人に向いた政策を心がけている。これはオバマ前大統領も同様で、表の顔はアメリカ史上初の黒人大統領で、博識でユーモラスな人気者でありながらも、裏では中東に先制攻撃を仕掛け多くの市民を殺害していたりする。国民を守るために悪人になる瞬間が彼にもあるのだ。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、麻薬組織を壊滅させるために暴力で鎮圧している。これも国民を守るための悪といえるかもしれない。政界だけでなく、学校や会社でも「悪」を使いこなせないとイジメられたり、搾取されることが多いのだが、政界はその極致と言える。

さて、小川淳也にその「悪」が使いこなせるのか?

答えは残念ながら「No」である。

彼はどんなに暴言を吐かれ、市民から冷たくあしらわれても何度も何度も立ち上がる。妥協しながらも、政党に歩み寄り、はたまた無所属になりながらもこの国をより良くしていこうと立ち上がるのだ。40代も中盤に差し掛かり、焦燥感がより一層強まっていく。いつしか彼の政治家人生は妻子が支える古い思想に取り込まれ、いつしかその痛々しさは、彼の選挙活動にも現れている。なんと妻に「妻です。」、2人の娘に「娘です。」と襷を背負わせ、痩せ我慢やせ我慢作戦だと自転車で公道を家族走りながら同情を得ようとするのだ。この場面には思わずゾッとしました。と同時に、17年も彼の至近距離で活動を見守ってきた大島新のカメラには、小川淳也の功績が全く映っていなかったことに気付かされるのです。

彼はいい人なのは確かだ、心は腐っていないのも感じ取れる。しかし、気がつけば朽ち果てかけている「香川出身、東大卒、元総務大臣政務官」という看板しか武器がなかったのだ。根回しもできず、実績もロクに作れない彼が総理大臣になったらどうなるだろうか?もしも安倍晋三ではなく、彼が総理大臣だったら日本はどう変わるだろうか?

残念ながらあまり良い方向に変わらないだろう。北方領土が取られる運命、アメリカから搾取される運命を変えることはできないだろう。精神論で総力戦だと空元気で足掻いて敗北する、第二次世界大戦と同じ運命を辿りそうだと映画からひしひしと感じる。

故に、本作は決して小川淳也のPR映画ではない。

そしてこの厳しい政治の真理は、単に反安倍政権の欲求を満たすだけの薄っぺらい作品では終わらせない。

それは90年代に地球温暖化を食い止めるため地球サミットが開かれたり、欧州が通貨統合をし世界が一つになろうとするも、2008年にリーマン・ショックが勃発、翌年にギリシャ危機が発生し、ヨーロッパでは難民の押し付け合いが激化したことで2010年代後半から世界は個人主義に走った。イギリスはEU離脱を決め、デンマークでは難民受け入れは断固拒否しはじめ、America Firstなドナルド・トランプが誕生した。そんな中で、新型コロナウイルスが蔓延する。個人主義、従来の「悪」では対応できない人類の危機を、日本として、地球に住む者としてどう変えていかないといけないのか?

善人過ぎる小川淳也の叫びと、彼が歩んだ血の轍を通じて観客はこの問題と対峙するのだ。

正直、ビジネスと感染拡大防止の両立は困難であり70億人以上の思想を一つに向かわせるのは不可能に思うところがあるのだが、そんななかでも市民の生活をより良くしていこうと頑張る小川淳也を見ると応援したくなります。彼の今後の動向に注目したいと思いました。

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