【 #死ぬまでに観たい映画1001本 】『オープン・ユア・アイズ』25歳が生み出す悪夢※ネタバレ

オープン・ユア・アイズ(1997)
原題:ABRE LOS OJOS
英題:OPEN YOUR EYES

監督:アレハンドロ・アメナーバル
出演:エドゥアルド・ノリエガ、ペネロペ・クルス、ナイワ・ニムリetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『死ぬまでに観たい映画1001本』にトム・クルーズ映画『バニラ・スカイ』の元ネタ『オープン・ユア・アイズ』が掲載されていたので観てみました。最近、「有名どころ」の揺らぎに動揺している。自分が青春を送った10年前、TSUTAYA全盛期において『オープン・ユア・アイズ』は『アモーレス・ペロス』同様ワールド・シネマ映画のスター作品であり、どの店舗に行っても目につきやすい場所にあった。TSUTAYAの映画紹介本でも取り上げられるほどの作品であった。また、本作は東京国際映画祭でグランプリを受賞し、いち早くアレハンドロ・アメナーバルの才能を発掘した功績があり、映画祭の観点からも重要な作品と言える。

しかし、今や確かに配信にはあるのだが、映画ファンの間で話題にあがることがめっきり少なくなった。25歳にして本作を作り、『アザーズ』や『海を飛ぶ夢』といった名作を生み出した天才アメナーバル監督も今やその名声は枯れてしまったように思えてくる。そんな空気を感じ取りながら、中学時代から知っていたが10年以上無視してきた『オープン・ユア・アイズ』を嗜んでみた。

尚、どうしても物語の構造上ネタバレなしで語れない作品なので、読む際はご注意ください。

『オープン・ユア・アイズ』あらすじ


第11回東京国際映画祭でグランプリに輝いたサスペンス。ある男がたどる、夢と現実が曖昧になる恐怖をサスペンスフルな展開で描く。悪夢と現実の狭間の喪失感を表現したスタイリッシュな映像、そして疾走感溢れる謎めいたストーリーが秀逸。ハンサムで自由な恋愛を楽しみ、裕福な生活を送る青年セサル。しかし彼の人生は交通事故で一変。顔は醜く変貌し、恋人からも冷たくされる。そんな中、不可能とされた手術は成功し、全ては元の幸福な生活へと戻ったかに見えたが…。
Yahoo!映画より引用

目を醒まして悪夢と対峙せよ

『パルプ・フィクション』が時間解体を軽妙自由自在に演出しエンタメへと昇華させた1994年に対し、本作は『去年マリエンバートで』をはじめとするアラン・レネ、アラン・ロブ=グリエが得意とする時間解体から記憶の揺らぎを描く手法と正面から向き合いエンタメへと昇華させたと言える。

誰もいないストリートを、誰かを求めるように走る青年セサル。一方で、友人に女でマウントを取る姿が描かれる。本作は、セサルの絶望と幸福を行ったり来たりする。彼はイケメンで金も女もいるが、一体どういう仕事をしているのか?何者なのかは実態を伴った描写がないので分からない。それがキーとなってくる。彼は仮面を被って泣いている。何か事故に巻き込まれたらしい。ソフィアに恋した彼は、メンヘラ女ことヌリアに無理心中を図られ、顔がぐちゃぐちゃになってしまったのだ。そして、彼はイケメンだけが武器で中身が空っぽだったことが分かる。ソフィアにあっさり見捨てられてしまうのだ。

しかし、ある場面では関係が修復して顔が戻っていたりする。彼は幻想の中で生きるようになってしまったのだろうか?

本作は、錯乱を引き起こす時系列入れ替えと、顔の変化にさらに仮面の存在が物語を緻密に再構築していく。セサルはしきりに仮面を外そうとしない。一方で、パントマイムの白塗りを眺める。これは自分の仮面の裏側を見られたくないという気持ちのメタファーでもある。パントマイムはある意味、セサルの無意識が生み出したような存在であり、パントマイムが逃げる描写からも彼の心情が伺える。

そして中盤で、顔の直った人生はセサルが大金を払って仮想世界の中に作られた虚無であったことが明らかにされる。今や仮想世界が一般的になり、アニメや映画の世界でライトに使われるようになったが、アレハンドロ・アメナーバルはこの時点で予言していたといえる。仮想世界であれば自分は傷つくことはない。何者にでもなれる。しかし、その夢は自分の無意識が生み出したものですらなく、作られた夢であることに気づき、空っぽな自分と対峙せざる得なくなる。その時に、人はどう前に出ればよいのだろうか?

ラストのこれ以上にない美しき世界で、物語のコマ達が立ち並ぶ中、セサルはビルから飛び降りる。これには1.絶望による自殺 2.新たな人生を踏み出す一歩の二つの意味を孕んでいる。ある一つの要素しか強みがなく、それが奪われたことによる虚無。虚無の底での決断に2つの意味を持たせることで、本作がしっちゃかめっちゃか物語の断片を並べていった演出が強固なものとなるのだ。

スペイン映画的退屈さや冗長さがあり、また今観ると、仮想世界で破壊された顔から意識を背けようとする演出は陳腐に見えるかもしれない。しかしながら、SFっぽさを感じさせずにSFを描き、複雑な心理をエンタメとして映画に刻み込んだアレハンドロ・アメナーバルの超絶技巧に脱帽しました。

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