【OAFF2021】『空(くう)』Another Sky ハードモード編

(くう)(2020)
英題:Emptiness
原題:VACIO

監督:ポール・ベネガス
出演:フー・ジン(付静)、マリオ・ジュー(朱李蛋)、ダニエル・モン(孟大民)

評価:65

おはようございます、チェ・ブンブンです。

16回大阪アジアン映画祭で『空(くう)』を観ました。エクアドル・ウルグアイ映画なのに何故アジア映画の祭典にいるのだろうと思ったら、エクアドルで働く中国人移民の話だった。確かに、中国人は世界のどんな国にもいる。思い出せば、昔リヒテンシュタインへ旅行した際に中国人が多く、中国人の店もあったことを思い出した。なのでエクアドルに中国人がいるのは不思議でないが果たしてどんなもんなのだろうか。

『空(くう)』あらすじ

マニラと北京で金融の仕事に就いた後、南米エクアドルに帰郷して映画制作を始めたポール・ベネガス監督の長編第1作。国内の映画祭で最優秀長編映画賞を受賞した。密航船に乗って、深圳からエクアドルへ渡ってきたシャオ・レイ(フー・ジン)とウォン(マリオ・ジュー)。レイはニューヨークを最終目的地とし、ウォンは幼い息子を呼んで一緒に暮らすことを夢見ているが

港湾都市グアヤキルのチャイナタウンを舞台とする、キャストの大半が中国人、主な言語も北京語という異色スリラー。前半と後半をクライム物の緊迫感で盛り立て、中盤は時にコミカルな笑いを装いながらも、夢や欲望、望郷の念など移民する者たちに去来する感情を取り上げ、密航の元締めチャン(ダニエル・モン)に搾取されている移民コミュニティの実体を描いている。

スペイン系移民を演じたリカルド・ベラステグイ以外は皆これが映画初出演となるが、主役の3人にリアリティがあり、密航者たちの面倒を見る老人役のイン・バオドュウの存在感も素晴らしい。黙々と習字に励み、主人公たちを厳しくも優しく見守るその姿には、異国で生きながらもアイデンティティを失わない人間の真実味が滲み出ている。

16回大阪アジアン映画祭より引用

Another Sky ハードモード編

中国からぼろ船に乗って、何日もロクな食事をしないままエクアドルに密航する。警察に追われ、命がけでグアヤキルのチャイナタウンにやって来たシャオ・レイ(フー・ジン)とウォン(マリオ・ジュー)。レイは渡米するための一時拠点としてエクアドルに滞在し、ウォンはいずれ息子を呼ぶための地盤をここに形成しようとしていた。そんな二人はいつしか惹かれ合い、慣れない異国の地で淡い関係を結んでいくのだが、狡猾なギャングスタ・チャンが二人を搾取していく。

本作はAnother Skyのように異国で生きる者の過酷さをリアルに描いている。何と言っても、チャラ男ヴィクター(リカルド・ベラステグイ)とのやりとりが面白い。彼はコミュ強故に言葉の壁を易々と乗り越えていく。スペイン語、英語を巧みに使ってカタコトの言葉しか話せない二人を理解する。レイが中国という感じを説明する際に、手話を使うのだがそれを下ネタに持っていくのだが、ライトなユーモアとしてそれは使われ、彼女がそれを受け入れることで彼がこの世界において味方だということが分かる。カップ麺をすする文化がエクアドルにない話等、いくつもの文化的ギャップを盛り込んでおり海外旅行好きには新鮮であった。

一方で、後半から突如『タクシー運転手』、『アルゴ』のような脱出劇が始まる。この唐突さには、結論ありきで映画を作ってしまった監督の雑さが見えてしまった。脱出劇をラストに配置し、序盤は異郷生活ものとして描く様子があまりにもアンバランスだ。だったらエクアドルで宿敵チャンと対決し、搾取から逃れる話に持っていった方が良かった気もする。また、チャラ男ヴィクターが単なる優しい男で止まっていることも問題に感じた。これはつまり、面白いシーンを沢山生み出す彼ではあるが物語上不要な人物になっているのだ。チャンと二人の間にいるのなら、もっと葛藤すべきだし、チャンの引力によって裏切る展開もあって良かったのではないだろうか?

なのでハードモードなAnother Skyとして面白かったものの、映画としてはもう一声欲しかった作品でした。

※第16回大阪アジアン映画祭より画像引用