【JFFH2021】『絶望部屋へようこそ』絶望がカンストすると希望になる

絶望部屋へようこそ(2020)
WELCOME TO MY DESPAIR ROOM

監督:小野光洋  
出演:甲田守、長谷山結衣、前田充弘、川久保晴、玉城琉太、山村大輔、木所恵子、吉田実加、佐藤ザンス、稲葉祐子etc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

大学時代から相互フォロー関係にある映画製作サークルCinemount_film_partyさん( @cinemountfilm_p )。第22回ハンブルク日本映画祭(JFFH2021)に新作『絶望部屋へようこそ』が出品されたということなので観てみることにしました。実はこの団体の映画を観るのは初めてです。

『絶望部屋へようこそ』あらすじ

Shuju Azuma is 28 and is searching for his personal and artistic path between his own aspirations and what the environment demands of him. He develops and films symbolic dances, attends a cinema school and is destitute. His untidy room has not been paid for six months and drives him to despair. After he meets a 20-year-old medical student Sayuri Hanashima, who is writing a novel, his life brightens. They make each other protagonists of their works. Poverty and pressure in their family do not destroy the love affair, but will success?
訳:俊司は28歳で、自分自身の願望と環境が求めるものとの間で、個人的かつ芸術的な道を模索している。象徴的なダンスを開発して撮影し、映画学校に通っているが、貧乏である。片付けられていない部屋の家賃は半年間払われておらず、彼は絶望していた。小説を書いている20歳の医学生・沙由里と出会ってから、彼の人生は明るくなった。二人はお互いを作品の主人公にする。貧しさや家庭の事情があっても、この恋は破れないが、成功はするのか?

※第22回ハンブルク日本映画祭(JFFH2021)サイトより引用

絶望がカンストすると希望になる

俊司は映画製作に夢中な男だ。しかしながら、イマイチ評価されていない。映画学校で「ウケる映画を作るには女子学生を出すのだ」と言われ、モヤモヤしながら公園で狐のお面を被り「孤独」を表現しようとしている。そこへ、女が現れる。沙由里だ。彼女に「実験映画って何するの?」「狐と孤独の『孤』って感じ違うよね」といきなり圧迫面接されて、狼狽する俊司だったが、二人は親密な関係になっていく。

俊司の家は貧しい。家賃を踏み倒し、電気を止められ、水も井戸水な為、煮沸させる必要がある。そんな劣悪な家に彼女を招き入れたとしても、何故だか二人の愛は深まっていくのであった。

本作はインディーズ日本映画にありがちな、貧乏なスランプものである。カッコつけてそれとなく理論をつけて実験映画を語ろうとする痛さや、ウケる映画とアート映画の間で揺らぐ気持ちが生々しく描かれている。

『サマーフィルムにのって』が下手に青春キラキラ映画論を語ろうとして、時代劇との解像度の差が露呈して残念な映画になっていたのに対して、本作は気取ったアート映画を撮ることで自分を大きく魅せようと思っている男が、不器用なりに青春キラキラ映画に挑戦しようとする前向きな姿勢が描かれており、この素直さに好感がモテる。

また、タイトルとは裏腹に、ひたすらゆるく明るく振る舞うことで、本作は希望の物語へと昇華することに成功している。

一方で、ヒロインを貧しい男の心を癒す存在として消費しているのは、映画におけるジェンダー論が激しく議論される2020年代においてあまり良い表現とは思えなかった。後半になるとヒロインが影のような存在になってしまい、重心が俊司に傾いてしまっているのが不味かったなと思う。

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