『恐るべき子供たち 4Kレストア版』崩したくない関係性

恐るべき子供たち 4Kレストア版(1950)
Les enfants terribles

監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
出演:ニコール・ステファーヌ、エドアール・デルミ、ルネ・コジマ、ジャック・ベルナール、メルヴィル・マルタン、マリア・シリアキュスetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2021/10/2(土)より公開される『恐るべき子供たち 4Kレストア版』をリアリーライクフィルムズさん、Cinemagoさんのご厚意で一足早く観ました。ジャン・コクトーの世界をジャン=ピエール・メルヴィル(『サムライ』、『仁義』etc)がどのように映画化したのか、覗いてみましたので感想を書いていきます。

『恐るべき子供たち 4Kレストア版』あらすじ

ジャン・コクトーの同名小説を、後に「サムライ」「仁義」などのフィルムノワール作品を生むジャン=ピエール・メルビル監督が映画化し、ヌーベルバーグの先駆的役割を担った作品。ある雪の日の夕方。少年たちの雪合戦が白熱する中、ポールは密かに思いを寄せる級友ダルジュロスが放った雪玉を胸に受け、気を失ってしまう。怪我を負ったポールは、姉エリザベートや病気の母と暮らす自宅で療養することに。姉弟は他人の介入を決して許さない秘密の子ども部屋で、危険な愛と戯れの世界を築き上げていくが……。原作者コクトーが自ら脚色に参加し、ナレーションも務めた。「死刑台のエレベーター」「大人は判ってくれない」のアンリ・ドカエが撮影を手がけ、クリスチャン・ディオールが衣装デザインを担当。1950年に製作され、日本では76年に劇場初公開。2021年10月、4Kレストア版でリバイバル公開。

映画.comより引用

崩したくない関係性

ジャン・コクトーが阿片中毒の治療中に書いた小さな世界で陰鬱とした醸造された愛憎を描いた『恐るべき子供たち』は壮絶な雪合戦のシーンから始まる。原作を読んだとき、アベル・ガンスの『ナポレオン』における雪合戦の場面が思い浮かんだ。1927年に『ナポレオン』が公開され、1929年に『恐るべき子供たち』が出版されたこと、ジャン・コクトーは映画監督でもあることから恐らく意識していたであろう。

それをジャン=ピエール・メルヴィルはどのように翻訳するのか?

ヴィヴァルディの旋律を映画よりも前面に主張し、その中で子供たちの喧騒を落とし込む。階段下では、一人の少年が群れに詰められている。ダルジュロスは階段の上に、まるで王のように君臨している。少年たちは雪合戦をしているのだが、まだ玉になっていない雪を投げ合って粉吹雪が巻き起こっている。『ナポレオン』では平面的アクションが展開されていたのに対し、こちらでは高低差を利用した目線の交差が存在する。密かにダルジュロスに想いを寄せているポールの気持ちが届かない様を高低差を用いた距離感で表象する。そしてこの印象深い戦場による暴力は、後にエリザベートに液体をぶっかけるポールのアクションへと伝播していき、やがてそれが銃へとシフトしていく。次第に暴力がエスカレートしていく、そのトリガーを強調して画に捉えていくのだ。

原作では、レトリックによりポールの名はしばらく明かされなかったり、文の繋がりにより流れるように広がっていく演出が特徴的となっているが、それを映画に翻訳する際に重要となってくるのは、視覚表現である。

主人公たちの心象世界を重く印象的な画作りの達人であるメルヴィルは見事に翻訳している。中でも「部屋」の扱いに関して非常によくできている。

前半、小さな部屋で陰惨としたポールとエリザベートの言葉と言葉で傷つけ合う姿が描かれる。小さな部屋に闇の世界を作り上げる。舞台が大きなお屋敷に変わると、広大な空間があるにもかかわらず、仕切りで壁を作り、小さな世界が想像される。これはアガットが現れたことで、世界が広がろうとするのを抑制しようとする動きに見える。

思春期のコミュニティというのは脆く壊れやすい。中高時代「新しいメンバーが入ったら関係性が壊れてしまう」と不安になった思い出ある人も少なくないだろう。その広がる世界への拒絶がこの映画では印象的に描かれているのだ。故に、この小さな壁が崩壊する場面がこの映画で一番重要となっているわけだ。

ちなみに、本作でアガットの美しい衣装を手がけたのはクリスチャン・ディオールである。ジャン・コクトーとデザイナーとは意外と関係が深い。コクトーがピカソ、サティと共にバレエ作品『パラード』を制作した際に資金提供をしたのがココ・シャネルであった。彼女はコクトーに阿片中毒の治療をすすめた人の一人で、サン・クルーでの治療費を負担した。

また、コクトーが映画化した『美女と野獣』の衣裳・美術を手がけたクリスチャン・ベラールは、コクトーが阿片治療中にであったエリザベートとポールのモデルであるブルゴワン姉弟の紹介で親睦が深まっている。

つまり『恐るべき子供たち』を中心にデザイナーがコクトーの世界に吸い込まれていったのだ。アガットの登場でエリザベートとポールの世界が広がるようにコクトーの世界も広がっていったのだ。

日本公開は2021/10/2(土)是非劇場でお楽しみください。

※映画.comより画像引用