【CPH:DOX2022】『FIRE OF LOVE』運命の赤い溶岩

FIRE OF LOVE(2022)

監督:Sara Dosa

評価:95点



おはようございます、チェ・ブンブンです。

アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にはサンダンス映画祭で賞を獲った作品が来るイメージがある。『FLEE』や『行き止まりの世界に生まれて』がそれに該当する。さて、それを踏まえると、恐らく『FIRE OF LOVE』は来年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートするだろう。火山に魅せられたカップルの活動をフッテージから語る作品。その圧倒的インパクトと語り口の面白さは私も虜にさせました。ナショナル・ジオグラフィックが配給を買っているとのことなので、日本ではDisney+配信になると思うのですが紹介していく。

『FIRE OF LOVE』概要

Intrepid scientists and lovers Katia and Maurice Krafft died in a volcanic explosion doing the very thing that brought them together: unraveling the mysteries of volcanoes by capturing the most explosive imagery ever recorded.
訳:勇敢な科学者であり、恋人同士でもあったカティアとモーリス・クラフトは、火山の爆発で亡くなりましたが、それはまさに二人を結びつけたものでした。

IMDbより引用

運命の赤い溶岩

だだっ広い氷の大地を突き進む車。しかし、車輪が溝にハマって動けなくなる。すると、すぐさまモーリスがスコップを持って穴を掘り、カティアが運転をし窮地を回避する。抜群のコンビネーションから始まる本作は、火山に魅せられたカップルの狂気と感動のドラマであり、少し錆び付いたフッテージが観る者の心をざわつかせる。二人は、単に秘境・火山を目指す冒険家ではない。噴火による産物を持ち帰るような研究者でもない。噴火の瞬間を捉える。間近で業火振りまく地獄のような空間と対峙することに命をかけているのだ。専門家なので、当然万全な装備をして火山に挑む。しかし、その光景は美しくも恐ろしいものだ。噴火を観た感動が原動力となり、それが死への欲動として二人を深淵に向かわせる。エトナ火山、ストロンボリ島などを回っていくのだ。その執着による画には説得力がある。

例えば、背後で溶岩が画面を覆うほど流れている空間ではしゃぐ。確かに鎧を着ているが、すぐそばに真っ赤な塊が落ちるのである。映画は人を異世界に連れていく。非日常性に我々は興奮するのだが、これ以上に興奮する場面はないだろう。また、溶岩の動きを捉える場面では、官能的粘り気をもって隆起する紅の魅力が伝わってくる。

さて、ふと我々は思う。いくら火山の噴火を観たからといって、ここまで取り憑かれるのか?と。ミランダ・ジュライの語りとフッテージから段々と第二次世界大戦や、ヴェトナム戦争など人類の破壊に絶望し、それが自然による破壊の美学への執着へ導いたのではと感じるようになってくるのである。二人は日本の雲仙岳で死んだ。ひょっとすると、二人は人間に殺されるよりも自然に殺されることを望んでいたのかもしれない。

本作は、異次元の美しさから、人間の執着の心理を考察する壮絶なドキュメンタリーであった。

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※IMDbより画像引用