【CPH:DOX】『The Gig Is Up』ギグワークにより機械になっていく人間たち

The Gig Is Up(2021)

監督:Shannon Walsh

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

皆さんは「ギグワーク」をご存知だろうか?

「好きな時に好きなだけ働ける」をコンセプトに数時間単位で仕事ができる概念である。雇用契約ではなく業務委託契約を結ぶため、大学生や転職活動を行なっている人の隙間仕事として人気が高まっている。日本ではUber Eats等の出前サービスの普及で有名になった概念だ。

一方で業務委託契約な為、労働者に責任を押し付けることができる為、労働に必要なバッグ等を買わせたり、万が一トラブルが起きた際もあまり取り合ってくれなかったりする問題がある。また、現代ビジネス戦略の闇がそこに介在しプラットフォームを普及させる段階では、ユーザーや労働者に高待遇だったのが、ある程度囲い込みできた段階で賃金を下げたり、利用料金をあげたりするテクニックが散見される。その段階になると人々はそのプラットフォームに依存していることが多く、逃げられない為強気な商売に出られるのだ。実際にUber Eatsでは報酬引き下げを巡って労働者との対立が勃発した。ギグワークは個人対会社の関係になる為、労働組合ができにくかったりするのですがウーバーイーツユニオンが設立され、ギグワーク時代に必要な監視の機能を担おうとしている。

さて、CPH:DOXではそんなギグワークに警鐘を鳴らすドキュメンタリーが作られた。『The Gig Is Up』である。日雇い労働を専門用語でコーディングした闇深いシステムによってどのような影響が世界中で出ているのかを追った本作は日本公開してほしいほどに重要な作品でありました。

『The Gig Is Up』概要

The labour market is changing. Technology has turned the algorithm into a new middle manager, workers give up their rights, and customer ratings determine who wakes up to a job the next day. In a journey from France, the USA and China to Nigeria, ‘The Gig is Up’ paints a picture of the new global app proletariat. A digital feudal society of chauffeurs and bike messengers, where the revolution is brewing and demands for proper working conditions are on the rise. Meanwhile, leading tech experts provide insight into psychology and data patterns and give us an idea of what the future’s labour market will look like if we do not reclaim control in the meantime. But where do you start when Amazon’s warehouse workers are paid in gift cards – to be used on Amazon? Or when stress, addiction and broken families need to be healed, and there is no way out? One place to start is to look the people in the eyes who cycle through the city to bring your dinner to your door. And this is precisely what Shannon Walsh’s highly topical and humane tech film does.
訳:労働市場は変化しています。テクノロジーの進化により、アルゴリズムが新たな中間管理職となり、労働者は権利を放棄し、顧客の評価が翌日の仕事を決めるようになりました。フランス、アメリカ、中国、ナイジェリアを旅しながら、「The Gig is Up」は新しいグローバルなアプリプロレタリアートの姿を描き出します。運転手やバイクメッセンジャーなどのデジタル封建社会では、革命が起こりつつあり、適切な労働条件を求める声が高まっています。一方、第一線で活躍する技術者たちは、心理学やデータパターンに関する洞察を提供し、その間に私たちがコントロールを取り戻さなければ、未来の労働市場がどのようになるのかを教えてくれます。しかし、Amazonの倉庫で働く人々の給料が、Amazonで使えるギフトカードで支払われているとしたら、どこから手をつけたらいいのでしょうか?あるいは、ストレスや依存症、崩壊した家族を癒す必要があるのに、出口がない場合はどうすればいいのでしょうか?そんなときは、街中を自転車で移動しながら夕食を運んでくれる人たちの目を見ることから始めるのがいいでしょう。シャノン・ウォルシュ監督の高度に時事的で人道的な技術を駆使した映画は、まさにこれを実現しています。

※CPH:DOXより引用

ギグワークにより機械になっていく人間たち

今日、テクノロジーの著しい発達によって人々は会社に行かなくても仕事ができるようになってきた。家にいながら仕事を受注し、好きな時に好きなだけ仕事をできるようになってきた。人類が追い求めていた「機械に労働を任せて、自由になる時代」はやってきたのだろうか?

20世紀に人類が夢見ていた時代は来なかった。

来たのは、機械よりも安価な労働力に成り下がった人類が、機械の代わりに仕事をする時代だった。それは世界全体にまで波及し、アフリカ・ナイジェリアでも起きている問題である。ナイジェリアにいる男は日夜、パソコンを確認する。次々と仕事がサイトに流れていく。その中で単価の高い仕事を奪い合わねばならない。自分が寝ている間に、高単価な仕事を奪われたらどうしよう?彼は孤独にストレスばかりが蓄積されていった。渋滞に巻き込まれたタクシーの中でもサクッとテープ起こしの仕事を行い、無駄な時間をお金に変えることができるようになったが、どこかディストピアを感じる。

またアマゾンで仕事を請け負っている人の報酬は現地通貨ではなくアマゾンのギフトカードだったりする。これで良いのだろうか?またギャンブル中毒の母を養う男はギグワークで呑気に暮らしているのだが、彼の仕事は貧困から抜け出せなくなるだけではないのだろうか?中国ではUber Eatsのようなデリバリーサービスが沢山作られ、熾烈な価格競争、顧客の奪い合いが行われている。破れた企業の自転車が無数に捨てられている。

テクノロジーの発展により便利にはなったが、人間が統計データとして扱われ、段々と無機質な機械になっていく怖さがある。法律上、論理的正しさを元に人権や倫理を踏みにじっていき、人類を支配していく。便利さという蜜が持つ猛毒を多角的に描いた作品でした。確かに、80分で盛り込むには話題が散乱している気もするが、それだけ緊急を要する映画だったんだと思います。

誰しもが『家族を想うとき』のような状況に追いやられる日はすぐそこにまで来ているのです。

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※CPH:DOXより画像引用