『やがて海へと届く』とても長いお別れ

やがて海へと届く(2022)

監督:中川龍太郎
出演:岸井ゆきの、浜辺美波、杉野遥亮、中崎敏、鶴田真由、中嶋朋子、新谷ゆづみ、光石研etc

評価:60点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

四月の永い夢』、『静かな雨』の中川龍太郎監督新作『やがて海へと届く』を観てきました。中川龍太郎監督は感傷的な光の使い方をするイメージがあるのだが果たして…

『やがて海へと届く』あらすじ

彩瀬まるの同名小説を岸井ゆきの主演、浜辺美波の共演で映画化。引っ込み思案な性格で自分をうまく出すことができない真奈は、自由奔放でミステリアスなすみれと出会う。2人は親友になったが、すみれは一人旅に出たまま突然姿を消してしまう。すみれがいなくなってから5年、すみれの不在をいまだ受け入れることができずにいる真奈は、すみれを亡き者として扱う周囲に反発を抱いていた。ある日、真奈はすみれのかつての恋人である遠野から彼女が大切にしていたビデオカメラを受け取る。カメラに残されていたのは、真奈とすみれが過ごした時間と、真奈が知らなかったすみれの秘密だった。真奈はもう一度すみれと向き合うため、すみれが最後に旅した地へと向かう。真奈役を岸井、すみれ役を浜辺が演じるほか、杉野遥亮、中崎敏、鶴田真由、中嶋朋子、新谷ゆづみ、光石研が脇を固める。監督は「四月の永い夢」「わたしは光をにぎっている」の中川龍太郎。

映画.comより引用

とても長いお別れ

YouTubeにアップされるような、感傷的なアニメーションと詩が語られる。電車を待つ。でも、それは来ないと言う。線路は水に浸されているのだ。そして待ち人は水の中へ潜っていく。この段階で、震災に関する喪失の話だと分かる。真奈(岸井ゆきの)はちょっと思い出して涙する。悲しみを隠すように仕事へと戻る。そこへ、遠野(杉野遥亮)が現れる。そして、残されたビデオカメラを託される。死という直接的な言葉は使わずに、死を受け入れようとする真奈の回想から真相が紐解かれていく。大学に入り、呑み込まれるように飲みサーの新歓に巻き込まれた。窮地の彼女を救ったのは、すみれ(浜辺美波)だった。ミステリアスな彼女に温もりを感じた彼女は、二人だけの青春を謳歌する。一緒に電車旅をしたりするのだ。そんな彼女は、大学4年生の時、消えた。

本作は、死を直接語らず、間で観客の想像力を働かせるパートと、別の喪失により彼女が事実を受け入れていくパートに分かれている。このパートの狭間、トリガーとして語られる言葉の重さに作劇の鋭さを感じる。しかしながら、後半パートに問題が多かった。まず、すみれ視点を設けたことで、観客の想像力を活かした前半パートの良さがかき消されてしまったように思える。説明的に、すみれから見た愛情、または真奈が理想化した視点を描いてしまっている。そこに驚きがなく、想定内の動きしかないので、物語が重複して冗長に感じるのだ。また、すみれ目線にしたことである決定的瞬間を描くことになる。そこには映画的ハッタリがあり、東日本大震災の津波に巻き込まれる瞬間とは思えない描写がある。これには疑問が残る。被災者のインタビューシーンが、感傷的盛り上がりのために入れたのではと思ってしまうのだ。『ツリー・オブ・ライフ』調のスピリチュアルな後半アニメパートも感傷的な盛り上がりに貢献しており、震災を感動物語のパーツとしてしか考えてない気がして不快感を抱いた。

とはいえ、『春原さんのうた』のように映画館における間の良さを引き出した作品なのは間違いない。マルチタスク当たり前、ノイズだらけの世界で、2時間人間の喪失が癒えるまでの長い間を共有する。その体験は、自分の人生と向き合う機会を与えてくれるであろう。日本映画は2時間程度で、それができるから伸ばしていくポイントだと思う。

※映画.comより画像引用