【CPH:DOX】『MISHA AND THE WOLVES』あの名作はフィクションだった

MISHA AND THE WOLVES(2021)

監督:Sam Hobkinson

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

皆さんは「少女ミーシャの旅」をご存知だろうか?ベルギーの作家ミーシャ・デフォンスカの自伝的小説で、ナチスに親を奪われた彼女が狼に助けられながら逃げる感動的な話である。18ヶ国語に翻訳される程のベストセラーとなり、2007年には『ミーシャ/ホロコーストと白い狼』という題で映画化された作品だ。

しかしこの本は自伝ではなく、実はフィクションであった。本ドキュメンタリーは、彼女の本を出版したジェーン・ダニエルがことの真相に辿り着くまでの過程をドラマティックに描いたドキュメンタリーである。恐らく、今後劇映画化させるであろう壮絶な内容である一方、ネタバレ地雷原なので、ここでは最小限に留めて感想を書いていきます。

『MISHA AND THE WOLVES』概要

The incredible story of the 7-year-old girl Misha, who escaped the Holocaust by fleeing into the woods and living among wolves for years, is almost too good to be true. Misha Defonseca sold millions of copies of the book based on her life’s great adventure, which has since been made into a film. Nobody remained untouched by the story of the young girl alone in an evil world. Until it all started to fall apart. Even though reality first seemed to surpass fiction, it turns out that there are more sides to the story – and they have not made it any less compelling. Who is Misha? Where did she come from? And when do the stories we tell about ourselves become a reality?
訳:ホロコーストから逃れるために、森の中に逃げ込み、狼の中で何年も暮らした7歳の少女ミーシャの信じられない話は、あまりにも素晴らしいものです。ミーシャ・デフォンセカは、自分の人生の大冒険を描いた本を何百万部も売り、映画化もされています。邪悪な世界にたった一人で生きる少女の物語に、誰もが心を奪われずにはいられなかったのです。すべてが崩壊し始めるまでは。最初は現実がフィクションを凌駕しているように見えたが、物語にはもっと多くの側面があることがわかった。ミーシャとは何者なのか?彼女はどこから来たのか?そして、私たちが自分自身について語る物語は、いつになったら現実になるのでしょうか?

※CPH:DOXより引用

あの名作はフィクションだった

小さな出版社Mt. Ivy Pressを営むジェーン・ダニエルは、狼と共にナチスから逃げたというミーシャ・デフォンセカの昔話に惹かれる。これは小説にした方がいいのでは?ジェーンは彼女を説得して一緒に本を作ることとなる。そして、生まれた「少女ミーシャの旅」は18ヶ国語に翻訳される程のヒットを果たす。そしてなんとウォルト・ディズニーから映像化の話も舞い込んでくる。

しかし、二人の関係は突如壊れてしまう。この本の権利を巡ってジェーン・ダニエルはミーシャに訴えられてしまったのだ。この本への過干渉を巡り泥沼の裁判が勃発する。センセーショナルな内容もあり、世間はジェーンにあまり味方してくれず結局2200万ドルの支払いを命じられ破滅してしまう。

だが、この一連の裁判の中でジェーンはある違和感に気づいていた。裁判をする中で提出される書類上においてミーシャは別名モニーク・ドゥ・ワエルを名乗っていたのだ。半ば、ミーシャに対する復讐も混じりジェーンは調査を始めると次々と矛盾が明らかになる。

そもそもミーシャが、日本に例えるなら「笑っていいとも!」「マツコの知らない世界」といった誰しもが憧れるテレビ番組「オプラ・ウィンフリー・ショー」の出演を拒否しているところにも違和感がある。彼女がメディアに出られない理由とは何か?

そして明らかになってくると、彼女は何故虚構を実話のように語ってしまったのかも段々と分かってくる。本作はただ、ミーシャを糾弾する映画に留まらず、ホロコーストというセンセーショナルな内容に盲目になってしまう我々にもナイフを向け、人間の心理を暴いていく作品である。非常に興味深い内容なので、日本公開ないし配信が決まってほしいものである。

 

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※CPH:DOXより画像引用