【CPH:DOX】『シリア・ドリーム ~ サッカーにかけた未来』青春の蹉跌、翳りは続くよどこまでも

シリア・ドリーム ~ サッカーにかけた未来
Captains of Za’atari(2021)

監督:Ali El Arabi

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

CPH:DOXにサッカードキュメンタリー『Captains of Za’atari』を観ました。世界には貧困や内戦といった不安定な状況から抜け出すためにはスポーツしかないような地域があり、日本ではスーダンから自由を手にするためにランナーになったグオル・マリアルのドキュメンタリー『戦火のランナー』が公開される。本作はシリアの難民キャンプでサッカー選手になることで自由を手にしようとした男たちのドラマが描かれていました。

※UNHCR WILL2LIVE Cinema 2021 で邦題『シリア・ドリーム ~ サッカーにかけた未来』として配信決定

『シリア・ドリーム ~ サッカーにかけた未来』概要

Fawzi and Mahmoud are best friends. They are two teenage boys who, like so many others their age, love football and dream of an international career on the pitch. And they live in Zaatari, the world’s largest camp for Syrian refugees. When a scout from a football club in Qatar visits the camp to spot new talents, the boys eye their lives’ opportunity. This becomes a journey that culminates in a finale (literally), which is just as emotional and nerve-wracking as a football match where everything is at stake. And that’s exactly what it is here. The director Ali El Arabi met Fawzi and Mahmoud when they played football in the desert sand with bare feet as young boys, and he has built mutual trust with them over many years. The resulting film was a hit with both reviewers and audiences at this year’s Sundance Film Festival. With its two irresistible protagonists and moments of true friendship, it is also a story that hits you straight in the heart.
訳:FawziとMahmoudは親友です。彼らは10代の少年で、同年代の他の多くの人々と同様、サッカーが大好きで、ピッチでの国際的なキャリアを夢見ています。彼らは、世界最大のシリア難民キャンプであるザータリに住んでいます。カタールのサッカークラブのスカウトが新しい才能を見つけるためにキャンプを訪れたとき、少年たちは人生のチャンスに目を向けます。これは、すべてがかかっているサッカーの試合のように感情的で神経を逆なでするような、(文字通り)フィナーレで最高潮に達する旅となります。そして、それはまさにこの作品にも当てはまります。監督のアリ・エル・アラビは、少年時代に砂漠の砂の上で裸足でサッカーをしていたファウジとマフムードと出会い、長年にわたって相互の信頼関係を築いてきました。その結果、今年のサンダンス映画祭では批評家と観客の両方にヒットしました。魅力的な2人の主人公と真の友情の瞬間、そして心にまっすぐ響く物語でもあります。

※CPH:DOXより引用

青春の蹉跌、翳りは続くよどこまでも

Fawziは妹に英語を教える。

“What’s is your Name?”
“Rose”
“そうじゃないだろ? I am Roseだろ。もういっぺん言ってみろWhat’s is your Name?”

まだ言葉もおぼつかない妹に対してキツく英語を教えるFawzi。彼はシリアの難民キャンプZa’atariで暮らしているが未来が見えてなかった。唯一の武器はサッカー。サッカー選手になることで自由を手にしようとストイックに練習していた。もうすぐ、千載一遇のチャンスがやってくる。試合でいい結果を残してスカウトされれば自由が手に入る。意識高い系の彼は、焦燥の翳りを見せながらも来たる日を待っていた。

そして当日。彼は親友のMahmoudと共に抜群のプレーを見せつけ、監督に呼ばれた。しかし、彼を待っていたのは「年齢制限」だった。年齢制限のせいで、Mahmoudが選抜されてしまうのだ。試合で結果を残せず選抜されないことよりもキツく重い青春の蹉跌が彼にのしかかり、彼は全てを失ってしまう。サッカーしかなかったものがサッカーを失う時の抜け殻になったような残酷な姿をカメラは捉える。それだけ、ここではサッカーが人生の命運をかけるものなのです。

ただ、幸運にも彼にチャンスが訪れカタールのサッカーチームの試合に参加できることとなる。だが、これは単に入り口に立ったに過ぎなかった。シリアの難民キャンプでは優秀でも、上には上がいる。そして彼は今まで、自由を勝ち取るため個人主義者であった。それはもう通用しない。コーチから厳しく叱責され、くじけそうになりながらも前に進み続けるしかないのだ。

本作が面白いのは、サッカー選手の話にもかかわらず、出てくるサッカー選手がサッカーを楽しんでいるようには見えないことだ。生活の為、人生の為、幸せを得る為にサッカーの道を選ばざるえないものの厳しい轍を徹底的に観客に叩きつけてくるのだ。70分くらいの作品ながらパワフルな作品でした。

2022年のヨコハマ・フットボール映画祭に来てほしいな。

CPH:DOX関連記事

【CPH:DOX】『GUNDA』ソクーロフに映画のノーベル賞を与えたいと言わせた男による豚観察日記
【CPH:DOX】『A COP MOVIE』メキシコの警察24時
【CPH:DOX】『Tina』A Fool in Love
【CPH:DOX】『CANNON ARM AND THE ARCADE QUEST』ワンコイン100時間アーケードゲームに挑戦する狂人たち
【CPH:DOX】『Mr. Bachmann and His Class』6年B組バフマン先生
【東京国際映画祭】『ノットゥルノ/夜』美は社会問題を消費させる
【セルゲイ・ロズニツァ特集】『国葬』ロズニツァ一撃必殺プロパガンダ映画!
【CPH:DOX】『Bakken』世にも奇妙な世界ふれあい街歩き
【CPH:DOX】『THE MONOPOLY OF VIOLENCE』「わきまえている」の暴力性
【CPH:DOX】『City Hall』ワイズマンが贈る崩壊する民主主義への処方箋

※CPH:DOXより画像引用