【カンヌ国際映画祭特集】『After Love』&『The White Knights』ヨアヒム・ラフォスってこんなに酷いの?

After Love(2016)
L’ÉCONOMIE DU COUPLE

監督:ヨアヒム・ラフォス
出演:ベレニス・ベジョ、セドリック・カーンetc

評価:0点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第74回カンヌ国際映画祭のシーズンがやってきました。コンペティション部門のラインナップをみていると、見慣れない名前の監督の存在に気がつきました。ヨアヒム・ラフォス(Joachim Lafosse)はベルギー出身の映画監督です。オティニー=ルヴァン=ラ=ヌーヴにあるInstitut des Arts de Difusionで学んだ後、2004年に初長編Folie Privéeを撮る。本作は、離婚するにあたって息子の所在をどうするのか悩む話であり、後の『After Love』に通じる物語となっている。2012年に発表した『Our Children』で5人も子どもを殺害した女を巡る物語を描き、主演のエミリー・ドゥケンヌが第65回カンヌ国際映画祭ある視点部門で女優賞を受賞した。

そんなヨアヒム・ラフォス監督作を2本観たのだが、あまりに酷すぎて心折れそうになりました。

『After Love』あらすじ

Après 15 ans de vie commune, Marie et Boris se séparent. Or, c’est elle qui a acheté la maison dans laquelle ils vivent avec leurs deux enfants, mais c’est lui qui l’a entièrement rénovée. A présent, ils sont obligés d’y cohabiter, Boris n’ayant pas les moyens de se reloger. A l’heure des comptes, aucun des deux ne veut lâcher sur ce qu’il juge avoir apporté.
訳:15年間連れ添ったMarieとBorisは別れることになりました。二人の子供と暮らす家を買ったのは彼女だが、それを全面的にリフォームしたのは彼である。今では、ボリスが家に戻ることができないため、一緒に住むことを余儀なくされています。いざ清算するとなると、二人とも自分が貢献したと思うことをあきらめたくない。

※AlloCinéより引用

演劇にも失礼

よく映画は演劇と比較される。アンドレ・バザンの「映画とは何か?」を読むと、かつてのフランス映画界は映画が演劇から抜け出すことにもがいていたようだ。演劇的な作品でも傑作はある。濱口竜介の『PASSION』や『ハッピーアワー』を観ると、カットと長回しの緩急によって人間の汚い部分が浮き彫りになる。限りなく演劇的でありながら、寸止めで映画になっている演出が魅力的だった。しかし、『After Love』は単に部屋の中で離婚する夫婦の間で揺れ動く子どもを映しているだけで全く持って面白さを感じられない。

確かに、あれだけ子どものことをみている母親よりも子どもたちはぐうたらしている父親の方に歩み寄り、フラストレーションが溜まっていく様子はリアルだ。現実でもよくある光景だ。しかしながら、映画は現実のあるあるを映しているだけにすぎない。だったらドキュメンタリーでやれって思うし、ドキュメンタリーでやったところで、あの単調なカット割りでは魅力を紡ぐことは難しいだろう。そして演劇ですら、役者の動きや舞台装置の創意工夫で独特な空間を作り出すというのに、それすらせず役者の演技だけで傑作を作ろうとしていること自体演劇に、演技に失礼だと思う。監督の怠慢が滲み出る駄作であった。

The White Knights(2015)
LES CHEVALIERS BLANCS

監督:ヨアヒム・ラフォス
出演:ヴァンサン・ランドン、ルイーズ・ブルゴワン、ヴァレリー・ドンゼッリ、レダ・カテブ、ステファーヌ・ビソetc

評価:10点

『The White Knights』あらすじ

Jacques Arnault, président de l’ONG “Move for kids”, a convaincu des familles françaises en mal d’adoption de financer une opération d’exfiltration d’orphelins d’un pays d’Afrique dévasté par la guerre. Entouré d’une équipe de bénévoles dévoués à sa cause, il a un mois pour trouver 300 enfants en bas âge et les ramener en France. Mais pour réussir, il doit persuader ses interlocuteurs africains et les chefs de village qu’il va installer un orphelinat et assurer un avenir sur place à ces jeunes victimes de guerre, dissimulant le but ultime de son expédition…
訳:NGO「Move for Kids」の代表であるジャック・アルノー氏は、養子縁組を必要とするフランスの家庭に、アフリカの紛争国から孤児を脱出させる作戦に資金を提供するよう説得しました。献身的なボランティアチームに囲まれた彼は、1ヶ月間で300人の子供たちを見つけ出し、フランスに連れ戻すことを目指しています。しかし、成功させるためには、アフリカの人脈や村長を説得して、孤児院を設立し、戦争の犠牲になった若者たちに未来を与えることを、探検の最終目的を隠して行わなければならない…。

※AlloCinéより引用

白人様の無意識なる見下し

意識高い系で海外ボランティアに行く人にとって最大の悩みは「何故、日本でなく世界の人々を救おうとするのか?」だ。西成区あいりん地区に行けば、貧困のどん底にいる人の存在に気づくでしょう。日本にもシングルマザーの問題やホームレス問題はあるのに何故海外へ出ようとするのか?海外で活躍する自分カッコイイというエゴをいかに隠すのか、その理由を探している人は少なくない。

さて、『The White Knights』は先進国の見下しの視点がある映画だ。単に意識高い系を批判している映画かと思いきや、恐らく監督の深層心理にある見下しの視点が隠しきれていない作品である。

NGOでアフリカの子どもたちを助けようとする人々の物語なのだが、どう考えてもアフリカの現地民が背景として処理されてしまっている。現地民とのコミュニケーションの難しさが中心に添えられているのに、重々しい空間で対話するショットを単調に繋げている。丸山ゴンザレスや高野秀行といったジャーナリストの本を読むと分かるが、緊迫感ある地域の異文化コミュニケーションは間が重要だ。相手の間に合わせるため、タバコや食事、薬物といったもので核心ついた話題を切り出すタイミングを伺う必要があるのだが、本作はただ会話して白人様の思惑に誘導しているだけなのだ。

アフリカの人々を救うって言っているけれど、タイトルからして「お前ら大変だろ?正義のヒーローが助けてやるよ」と上から目線なのが鼻につく。それで持って傲慢な現地の軍人や、現地民を思うように動かせない自分たちに苦悩するって呆れる。

意識高い系の苦悩を辛辣に描いた作品を観たければ、『僕たちは世界を変えることができない。But, we wanna build a school in Cambodia.』を観ることオススメします。