『ヤクザと家族 The Family』新時代のヤクザ映画と思ったら旧態依然だった。

ヤクザと家族 The Family(2021)

監督:藤井道人
出演:綾野剛、舘ひろし、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗、菅田俊、康すおん、二ノ宮隆太郎、駿河太郎etc

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

友人から『ヤクザと家族 The Family』を観てほしいとリクエストをいただいたので観てみました。藤井道人監督は『宇宙でいちばんあかるい屋根』を観た時に、海外の映画祭を意識している監督なんだなと思って、内向きになりやすい日本映画界にとって重要な監督であることは間違いありません。さて、彼がヤクザ映画に挑んだということで観てみたのですが、これがなかなか困った映画でありました。

『ヤクザと家族 The Family』あらすじ

「新聞記者」が日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた藤井道人監督が、時代の中で排除されていくヤクザたちの姿を3つの時代の価値観で描いていくオリジナル作品。これが初共演となる綾野剛と舘ひろしが、父子の契りを結んだヤクザ役を演じた。1999 年、父親を覚せい剤で失った山本賢治は、柴咲組組長・柴崎博の危機を救う。その日暮らしの生活を送り、自暴自棄になっていた山本に柴崎は手を差し伸べ、2人は父子の契りを結ぶ。2005 年、短気ながら一本気な性格の山本は、ヤクザの世界で男を上げ、さまざまな出会いと別れの中で、自分の「家族」「ファミリー」を守るためにある決断をする。2019年、14年の出所を終えた山本が直面したのは、暴対法の影響でかつての隆盛の影もなくなった柴咲組の姿だった。

映画.comより引用

新時代のヤクザ映画と思ったら旧態依然だった。

ヤクザ映画といえば、深作欣二だ。2010年以降のヤクザ映画、それこそ『日本で一番悪い奴ら』や『孤狼の血』は深作映画を意識して作られていた。しかし、藤井監督はそのようなクリシェに乗っかることなく、新時代のヤクザ映画を作ろうとしていた。COOL JAPANの広告のように、青みを活かし、美しくシャープな色彩の中、映画は紡がれる。

親父のようになりたくないと、薬の売人からドラッグを強奪し、海に捨てたチンピラ山本賢治(綾野剛)は、ヤクザに捕まり殺されそうになる。しかし、その少し前に中国ヤクザに射殺されそうになった柴咲組組長・柴崎博(舘ひろし)を救ったことから、命拾いをする。そしてあれだけヤクザを拒んでいた山本は、柴崎の右腕となる。それから数年が経ち、土地開発が計画されている新宿の今後を巡って抗争が勃発する。その抗争の果てに山本が逮捕される。14年の歳月が経ち、浦島太郎状態となった山本が待っていたのは、ヤクザを排除する社会だった。

本作はSNSの時代となり、ヤクザに基本的人権すらなくなって凋落する組を描いた2020年代のヤクザの栄枯盛衰ものを描いている。このテーマは確かに深作欣二の時代には描けないものがある。現代社会の叩いて良いと判断されたものは、「匿名」、「仮想世界」という隠れ蓑から、相手が絶望のどん底に堕ちるまで叩かれ続ける、ヤクザ以上の恐ろしさはあの時代にはなかったからだ。

その目の付け所は慧眼であるものの、蓋を開けてみれば旧態依然であった。そもそも、深作欣二を回避しようとして『ゴッドファーザー』をやるのはヤクザ映画に対する愛情がないように見える。そして、それ以前に、「オヤジ」という信仰が衰退していく組によって失われていき、その対象が女の肉体になるのが古いなと思った。これが男社会における、女の扱いに対する社会批評であればまだしも、単に山本の孤独を癒す存在として女が存在し、彼の罪意識が自慰レベルに留まり、結局女性は救われない存在のままであるのがよくない。それでもって2019年パートにおけるSNS描写が、SNSに対する憎悪を感情的にぶちまけたとしか思えない程雑であり、自衛のためにスマホ撮影する人や、なんでも写真に撮ってSNSにアップする人などといった描写に悪意があるような気がした。どこか、SNSを使う若者を見下しているような気すらした。

結局、画の面でも各時代の質感を出せていたかと訊かれたら疑問が残るのでイマイチな作品ではあったが、14年の獄中暮らしを回想させないことで時の重みを演出する描写などはよかったりするので、ひょっとしたら藤井監督とヤクザ映画の相性が悪かっただけのようにも見えます。

次回作に期待しましょう。

※映画.comより画像引用