『人数の町』「人数」にされていく人々

人数の町(2020)

監督:荒木伸二
出演:中村倫也(中村友也)、石橋静河、立花恵理、橋野純平、植村宏司、菅野莉央、松浦祐也、草野イニ、川村沙也、柳英里紗etc

評価:90点

今、巷で『イカゲーム』が流行っている。NETFLIX配信のデスゲームもので世界中で大ブームを巻き起こしているのだとか。その流行に伴い、日本映画を貶すツイートが散見される。確かに『イカゲーム』の金のかかったディストピア像、GoogleやAmazonなど現代社会を支配する企業が、色を強調したロゴを使用していることに併せて、単色カラーを強調した作りにしているところにも鋭さを感じる一方で日本のデスゲームものは下品な金を起用し、時代遅れなSFの色彩を伴っていたりして見窄らしく見えるのは無理もない。しかし、日本にも世界に戦えるレベルの画作りをしている作品があった。

『人数の町』あらすじ

中村倫也の主演で、衣食住が保証され快楽をむさぼることができる謎の町を舞台に描くディストピアミステリー。映画配給会社キノフィルムズを擁する木下グループが、映画業界の新たな才能発掘を目的に2017年に開催した第1回木下グループ新人監督賞の準グランプリ受賞作品を映画化した。借金で首が回らなくなり、借金取りから暴行を受けていた蒼山は、黄色いツナギを着たヒゲ面の男に助けられる。蒼山のことを「デュード」と呼ぶその男は、蒼山に「居場所」を用意してやるという。蒼山が男に誘われ、たどり着いたのは、出入りは自由だがけっして離れることができない、ある奇妙な町だった。蒼山役を中村が演じるほか、石橋静河、本作が映画初出演となる立花恵理、山中聡らが顔をそろえる。監督・脚本は、松本人志出演による「タウンワーク」のCMやMVなどを多数手がけ、本作が初長編監督作品となる荒木伸二。

※映画.comより引用

「人数」にされていく人々

それは『人数の町』である。荒木伸二監督デビュー作、オリジナル脚本しにて不思議なディストピア映画に仕上がっていました。

借金取りに追われ、路地裏で暴力をふるわれる青年が、謎の男に助けられる。しかし、その男とは妙に会話が成り立たない。彼のペースに吸い込まれるように、彼はとある町へとやってくる。ここで四宮秀俊の、鋭い撮影が光る。

人間を失ったように人がテクテクと歩いて闇に導かれる。なるほど本作は「人」が「人数」に変換されてしまう世界を描いているんだとこの横移動のショットで説得力を持たせているのだ。

この「人数の町」では、プールで遊んだり、紙を交換しあってセックスに励んだりしている。そして、お腹が空いたら、ディスプレイの前に行き特定の商品をディスったり、賞賛したりして食事を貰う。遠征の仕事では、レストランにサクラとして並び、自撮り写真を撮ったりする。

SNS社会となり、人々は人間から人数になってしまう。それに抵抗しようとも、貧困や社会システムが弊害となって、押し戻されそうになる。この蟻地獄を「人数の町」というディストピアな舞台装置でもって表現する。無機質に動く人や、雑然とした空間の配置(例えば、主人公が建物を歩くと突然暗闇だけの場が広がっているなど)を見るとまるで東欧の不条理小説のような趣を感じる。

数多作られる日本のディストピアもの、デスゲームものとは格の違いを見せつけられました。荒木伸二は今後注目の監督です。

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※映画.comより引用