『きみの鳥はうたえる』日本のジム・ジャームッシュが再び…

きみの鳥はうたえる(2018)

監督:三宅唱
出演:柄本佑、石橋静河、染谷将太etc

評価:80点

『Playback』で映画芸術界隈の人から注目され、密かに人気を集めている監督・三宅唱。ブンブンも、『やくたたず』『THE COCKPIT』で彼の魅力に惹かれた。彼はブンブンの言葉で語るなら、日本で唯一ジム・ジャームッシュの質感を完璧に再現できる監督だと思っている。やる気のない登場人物のなぁなぁな日常を、ただただ映しているだけなのだが、妙にカッコいい。山下敦弘よりもはるかにジャームッシュ感が出せる監督だ。そんな彼が、キネマ旬報ベストテン入りが保証されているといっても過言ではない、佐藤泰志(『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』)の小説を映画化した。果たして、今回はどんな世界を魅せてくれるのだろうか…

『きみの鳥はうたえる』あらすじ

共同生活をしている《僕》と静雄。《僕》は佐知子と恋に落ち、3人で生活することとなる。楽しく、ダラダラと過ぎ去る夏。そんな夏だったが、少しずつ佐知子との関係は変わっていった…

限りなく透明に近いブルー

本作のタイトルは、ビートルズの楽曲『And Your Bird Can Sing』に由来するもので、原作でも重要なキーワードとして《ビートルズ》が出てくるらしいのだが、三宅唱監督はまさかのその要素を希薄にし(ビートルズに詳しくなければ、ほとんど気づけない)、また佐藤泰志の小説っていうイメージもひたすらに透明にし、《三宅唱の世界》というものを本作に構築した。

↑染谷将太の誕生日が近いということで、柄本佑がジャッキー・チェン全作品のDVDをあげていましたw

舞台挨拶で、柄本佑が撮影について「他の現場と違って、本作は1日3シーンしか撮らなかったんだよね。だから、撮影と撮影の合間に寄り道ができた。撮影も、雰囲気が整うまで待って撮ったんだ」と語っていた。これは三宅唱が、雰囲気ができる瞬間を非常に大切にしているからだと伺える。映画は、その中の人物の人生のいわばダイジェストだ。しかし、現実世界の人生は、どうでもいい部分もあってこその人生。そのどうでもいい人生と、重要な部分とが数珠つなぎになっているからこそ魅力的だ。しかし、映画は2時間くらいの枠で人生を描く必要があるので、それはできない。多くの映画は、人生の点を無理やりつなぎ合わせて人生を描いているのだ。しかし、三宅唱は『THE COCKPIT』で、音楽が出来上がるまでの過程を緻密に描いた。その経験が活かされ、役者に『きみの鳥はうたえる』の世界の住人になる時間を十分与え、彼らが完全に役者としての人格を失った時にカメラを回している。故に、未来が見えず退廃的なんだけれども、多幸感に包まれた不思議な空間が紡ぎ出されていた。何気なく、ビリヤードをする。カラオケで歌う。その歌は決してうまいとは言えない。バイトでの、つまらなくただただ、なぁなぁと働き、3人で遊べる至福の時間を待つ。

彼らのセリフはないが、身体全体から滲み出る幸せの果汁に観る者は酔いしれることでしょう。どこか懐かしい、群青色とネオンが混ざり合う函館。限りなく透明に近いブルーから感じる、微かな恋の気持ち。この蜜に癒されました。恐らく、今回もキネマ旬報ベストテン入りは間違いないことでしょう。

ブロトピ:映画ブログ更新

ブロトピ:映画ブログの更新をブロトピしましょう!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です