『青い春』「汚」と「美」の陰翳礼讃

青い春(2001)

監督:豊田利晃
出演:松田龍平、新井浩文、高岡蒼佑、大柴裕介、山崎裕太、忍成修吾、塚本高史、永山瑛太(瑛太)、鬼丸、渋川清彦etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、漫画の実写化映画について映画仲間と話した際に、『青い春』をオススメされました。『青い春』といえば、『空中庭園』の豊田利晃監督代表作です。チラホラオールタイムベストでも見かける作品だけに気になっていました。Amazon Prime Videoにて配信されていたので観たのですが、これがとてつもなく良かった。ヤンキー学校に通っていない私でも刺さる部分が多い映画でありました。

『青い春』あらすじ

阪本順治監督の「ビリケン」で脚本を担当、「ポルノスター」(98)で監督デビューした豊田利晃の新作は、漫画家、松本大洋の短編集「青い春」からの4編をもとに、漫画誌編集者時代から原作者と交流のあった監督が脚本も執筆、男子高校の2年生4人のタイトル通りの日々を描く。故・松田優作を父に持つ松田龍平、「バトル・ロワイアル」の高岡蒼佑、人気モデル、大柴裕介ら新鋭俳優が集合。挿入歌はミッシェル・ガン・エレファント。

映画.comより引用

「汚」と「美」の陰翳礼讃

仄暗い屋上で、2人の男子高校生が扉を開けようとしている。微かに差し込む陽光が、ドアノブを青と銀の独特なコントラストで照らし合わせる。無限にあるような学生時代という時間の流れに虚無を感じる高校生のやつれた空気がそこを漂う。そして、ようやく扉が開くと、「幸せなら手を叩きましょう」と大きな大きな落書きが眼前に飛び込む。

時は卒業式、先輩はいなくなった。学校を牛耳るドンをキメるため、「ベランダ・ゲーム」ゲームが始まる。屋上、フェンス乗り越え、死の淵から手を叩く。その回数の多さでチャンピオンが決まるのだ。今回のチャンピオンはまさかの九條(松田龍平)だった。野望はなければ、将来に希望も何もない彼は天下を取っても何も変わらなかったし、変わろうともしていなかった。

本作は、バブル崩壊後、暗黒時代に堕ちた日本の絶望を背負った映画と言える。学校という狭い空間に押し込められて、永遠に続くような高校時代に虚無を感じる。その空気感を、「汚」と「美」表裏一体の世界で紡ぎ出す。大便がこびりつき、落書きまみれで吐き気を催す便所やドス黒いオーラを醸し出す校舎。それに対して、ソーシャルディスタンスを保ちながら屋上で度胸試しする男を眺める者たち、割れた窓ガラス、春の陽気を宿した舞い散る桜たちが美しさを観る者に叩きつける。

そして、本作は何よりも漫画の実写化として成功している。漫画としてのデフォルメされた世界を見事に翻訳しており、例えば校舎前に女子高生が現れると、校舎から無数の輩が顔を出し、「ヒューヒュー」と煽る場面は漫画の一コマが飛び出してきたような感覚に襲われます。

さらに松田龍平演じる九條が「HUNTER×HUNTER」のヒソカさながら、立っているだけでゾクッと念を感じ動けなくなる鋭利な眼光を突きつけてくる。これがまた魅力的だったりする。

生きる意味を見出そうとして、ナイフで人を刺してみたり、車やバイクで校舎に現れたり、花を育てたりして足掻く者の虚無の荒野をこうも「汚」と「美」の陰翳礼讃光らせながらスクリーンというキャンバスに描き殴る豊田利晃のパワフルさにノックアウトされました。

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