【ネタバレ解説】「3月のライオン 前編」映像化不可能だった5つの理由 ※同時解説:「男はつらいよ」番外編だった件

3月のライオン 前編(2017)
March comes in like a lion(2017)

監督:大友啓史
出演:神木隆之介,有村架純,染谷将太,
倉科カナ,佐々木蔵之介,
加瀬亮,前田吟,高橋一生etc

評価:65点

今年は、「ジョジョの奇妙な冒険」「銀魂」「鋼の錬金術師」と漫画原作地雷案件が公開を控えている。しかし、一足早くこんな地雷案件が公開された。その名も「3月のライオン」。
「ハチミツとクローバー」で一躍有名となり、「東のエデン」のキャラクターデザインを手がけた羽海野チカの将棋漫画だ。また手塚治虫文化賞マンガ大賞や全国書店員が選んだおすすめコミックにも選ばれているくらい人気漫画でもある。しかし、後述するがあまりに可愛いビジュアルに反して、重くそして熱く、情報過多で映像化が難しいこの漫画を、「るろうに剣心

」「ミュージアム

」の大友啓史監督が2部作として製作。前編だけでも2時間18分という超大作。原作漫画好きなブンブンは、今回アニメ版だけ鑑賞している友人と一緒に観に行きました。果たして…

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「3月のライオン 前編」あらすじ

原作漫画の約6巻付近、宗谷冬司VS島田開までの映画化。中学生でプロ棋士になった桐山零はとある事情で一人暮らし。学校に居場所はなく、淡々とある想いを抱えて将棋の道を歩んでいた。そんなある日、川本家に拾われて閉ざされた心が開花していく…

映像化不可能だった5つの理由

困った!今年、一番感想を語るのが難しい作品だと感じた。まず、結論から言うと「面白かった」。しかし、人にすすめられるかと言うと厳しい。

なんたって、
・原作orアニメで予習している
・マンガはマンガ、映画は映画と割り切る能力がある
・将棋の知識がある

この3点がないと楽しむことが困難だからだ。つまり、原作ファンにも映画ファンにも迂闊にオススメすると速攻ワースト候補になってしまう作品なのだ。

そもそも、原作が映画不可能レベルに頭がおかしい(褒め言葉)。それを5つのポイントに分けて解説していく。

ポイント1:川本家の可愛さが異常


まず、原作を読んだ方なら誰しも感じることであり、売れている理由の一つでもあるが、若き棋士・桐山が出会う3姉妹こと川本家が誰しも目を奪われる、卒倒するぐらい可愛いことにある。これを実写化する時点で叩かれるのは不可避。どんなに美しい女優さんでも、漫画やアニメのように究極の「可愛さ」を刹那の刹那まで維持することは不可能に近いからだ。今回3姉妹を演じたのは倉科カナ、清原果耶、そして「君の名は。

」新海誠監督の娘である新津ちせの3人だ。

ポイント2:将棋がテーマ

そして、なんといっても本作は「将棋」の映画というところがネックだ。確かに近年、プロのチェスプレイヤーを描いた「完全なるチェックメイト

」や百人一首大会を描いた「ちはやふる

」と机上のスポーツの映画は多く、ブンブンも賞賛していたりする。また昨年末に、本作の二階堂のモデルにもなった村山聖の伝記映画「聖の青春」が作られている為、別に将棋映画が製作不可能という訳ではない。しかし、「聖の青春」が非常に退屈だったのだ。後でその理由は詳しく書くが、端的に言えば、映画としてのアクションが「聖の青春」の将棋からは見えてこなかったことにある。「ちはやふる」の百人一首に比べて動きが少ない「将棋」故の演出の難しさがある。

ポイント3:内容が地味で重い

実は原作は、可愛い絵に反して非常に重く、地味で地味な作品。桐山の境遇がとにかく凄惨かつ、川本家次女のひなたがムゴいイジメにあったりします。また、物語的起伏も緩やかで、試合→現実を繰り返してはいるものの、意外と単調だったりする。「ちはやふる」やそこらのスポ根漫画に比べると、「試合にいくぞー!」という熱さはなく、どこか冷めた感じが映画にすると非常にネックになるポイントだ。

ポイント4:情報量、登場人物が多い

登場人物多すぎて大変だ。次から次へと個性的な登場人物が出てくるので、映画化する際に何人か削る必要があります。今回の場合、川本ひなたの好きな野球部の高橋勇介が削られていたりする。また、原作者の羽海野チカが相当将棋が好きなだけに、「ウォッチメン」か!とツッコミたくなるような文字量が漫画の吹き出しにびっちりと書かれている。速読能力で通常の漫画は10分で読んでしまうブンブンでも、「3月のライオン」は1巻読みきるだけでも30~60分かかる程の情報量だった。

ポイント5:世界観が分かるまでが長い

そして、原作は厄介なことに、桐山が何故楽しくなさそうに将棋をするのか?何故それでも全力で将棋をするのかが分かるまでに約5~6巻かかります。映画的には不細工な手法と言われるフラッシュバックの多用、心情のナレーション描写も多く、いくら前後編方式を取っているからとは言え、そもそも原作を忠実に再現したら酷評殺到になるの必至だ。

ブンブンの感想

監督が、大友啓史。昨年の「秘密 THE TOP SECRET

」で、BLマンガである原作をミスリードし大失敗しているだけに正直期待していなかったが、条件付きで面白かった。その大きな理由3つを書いていく。

「3月のライオン 前編」の凄いところ1:
繊細できめ細かな脚色

1つ目は大友監督が原作に対して愛があったこと。本作は、原作からの改変が緻密で、これが上手い!本来、6巻くらいまでかけて主人公・桐山が何故、将棋を楽しそうにやらないのかが分かるのだが、映画ではそうそうにネタバラシをする。また、3巻くらいまで桐山はプロ棋士であることを川本家に隠しているのだが、映画ではそうそうにネタバラシする。そうすることで、物語のスピードを上げている。そして、今回6巻くらいまでを映画化しているのだが、ミニエピソードの取捨選択に全く無駄がない。棋士は脳を酷使するので定期的に糖分を取らないといけない。その象徴的な「おやつタイム」も絶妙な場所で挿入している。無駄が一切ないので、2時間18分の長さを感じさせない、メインストーリーを邪魔しない脚色に痺れた。

「3月のライオン 前編」の凄いところ2:
元将棋部が語る将棋シーンの凄さ

そして、私が条件付きで本作を賞賛する一番の理由。それは試合だ。将棋を知らない人が観る場合、昨年公開された「聖の青春」の方が、試合の熱さ、一手の重みが伝わる。しかし、元囲碁・将棋部の私が観ると、将棋盤が死んでいるように見えた。駒は動かしてはいるのだが、盤上という舞台の中で、飛車ないし金、歩がそれぞれの役割を担い活躍している感じは一切伝わってこなかった。チェス映画「完全なるチェックメイト」ではチェス素人でも各駒の関係性がなんとなく分かる、盤上で「戦争」が行われているのを体感することができたためガッカリだった。

今回の「3月のライオン 前編」では、元囲碁・将棋部の私が観ると全身に電撃走る程熱い格闘が繰り広げられていた。初戦では桐山と養父・幸田柾近が激戦を繰り広げる。養父が飛車等の強い駒を沢山桐山の陣地に送り込む。普通のプレイヤーなら、守りに入るだろう。しかし、桐山は相手の攻撃無視して、攻める。原作でもあった熱い心理戦が見事に再現されている。

さらに、大友監督は試合や戦術の選び方も上手く、初戦以外は、「袋の鼠」をテーマにした試合を展開する。袋の鼠になり王や玉(これを取られたら負け)が追い詰められる者が、いかにして耐え、逆転に持ち込むのか、まるでデヴィッド・O・ラッセルの「ザ・ファイター」のような熱さがあった。

しかし、今回アニメ版を観ている&将棋のルール知らない友達と観にいったのだが、そのバトルの熱さは伝わってなかった。つまり、映画としては興行でも内容でもかなり失敗している。「完全なるチェックメイト」には及ばなかった。しかし、将棋を少しでも知っている人が観ると極上のアクションが盤上で繰り広げられていることに築き、高揚感が得られるでしょう。

「3月のライオン 前編」の凄いところ3:
役者の演技が凄い

本作は、原作がキャスティング上どうしても原作のような100%の美しさを演出することは不可能だと考えたのか、奇をてらったキャスティングで話題づくりに励んでいる。例えば桐山の宿敵である凶暴な女・幸田香子をほとんど汚れ役を演じたことのない有村架純に演じさせたり、新海誠の娘を川本家の三女に配置したりしている。また、染谷将太に特殊メイクをさせて、ふとっちょの二階堂を演じさせている。そう聞くと地雷臭がするが、総て成功している。当然ながら主人公・桐山を演じた神木隆之介の演技は上手いのだが、なんといっても染谷将太の怪演はアカデミー賞助演男優賞レベルに素晴らしい。もはや演技マシーンとでも言えよう、完全に漫画の世界から飛び出してきたかのような熱すぎてぶっとんだ男を汗とソウルでジットジトになりながら演じる染谷将太に拍手を送りたい。

また、A級、八段(要するにメチャクチャ強い)の島田開を演じた佐々木蔵之介とニヒルな男・後藤正宗(ヤバイ強い)を演じた伊藤英明の死闘シーンは圧巻。お互いの顔芸が光る、劇中最も熱い試合を好演していた。

桐山の高校教師を演じた高橋一生の演技も原作から飛び出してきたような感じで、とりあえず奇をてらったキャスティングに反して80点以上の演技だった。予告編でもあった映画的にはあまり芳しくない過剰な感情を語る場面はあれど、そんなのどうでもよくなるクオリティだ。

まとめ

だから前半でに提示した
・原作orアニメで予習している
・マンガはマンガ、
 映画は映画と割り切る能力がある
・将棋の知識がある

の3点を兼ね揃えることで楽しめる作品だった。故に友だちに、気軽にオススメはできないがブンブンの心には残りトラウマ多い「後編」へ期待を膨らませることができた、果たして「3月のライオン」は返り咲けるか?

おまけ:「3月のライオン 前編」は
番外編「男はつらいよ」だ!

本作で和菓子屋・三日月堂の店主・川本相米二を演じるのは前田吟。なんと、「男はつらいよ」でさくらの夫・諏訪博を演じた方だ。
そう考えると、寅さんファン激アツな作品に思えてくる。

それを踏まえて「3月のライオン 前編」のあらすじを書いてみると次のようになる。

「3月のライオン 前編」裏あらすじ

おいちゃんが亡くなり、老舗「くるまや」は消滅。タコ社長経営するブラック企業・朝日印刷は巨額の赤字を抱え、50人の新入社員に内定取り消しを出し倒産した!哀しみに暮れる、博だったが心機一転、長年「くるまや」を見てきたノウハウを活かし和菓子屋・三日月堂をオープン。そこに、母を失った三姉妹と中学生のプロキシが現れ心を通わせていく…博は4代目おいちゃんになれるのか?

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