『窓辺にて』稲垣吾郎ASMRかく語りき「パフェではない冷たいパフェ人生」

窓辺にて(2022)

監督:今泉力哉
出演:稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、若葉竜也、志田未来、佐々木詩音、倉悠貴、穂志もえか(保紫萌香)、斉藤陽一郎、松金よね子etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第35回東京国際映画祭にて観客賞を受賞した今泉力哉×稲垣吾郎映画『窓辺にて』を観た。今泉力哉監督といえば、日本のホン・サンスともいえよう恋愛感情のディスカッション劇を得意とする監督だ。本作は、ホン・サンスのようなズームや切り返しなどといった技巧を使わず、運動をほとんどせず会話だけで約2時間半物語を回転させ続ける異様な作品となっていた。東京国際映画祭観客賞は稲垣吾郎効果かと若干怪しんでいた私であったが、彼の演技含めて総じて素晴らしい作品であった。

『窓辺にて』あらすじ

「愛がなんだ」の今泉力哉監督が稲垣吾郎を主演に迎え、オリジナル脚本で撮りあげたラブストーリー。

フリーライターの市川茂巳は、編集者である妻・紗衣が担当している人気若手作家と浮気していることに気づいていたが、それを妻に言い出すことができずにいた。その一方で、茂巳は浮気を知った時に自身の中に芽生えたある感情についても悩んでいた。そんなある日、文学賞の授賞式で高校生作家・久保留亜に出会った市川は、彼女の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれ、その小説にモデルがいるのなら会わせてほしいと話す。

市川の妻・紗衣を中村ゆり、高校生作家・久保を玉城ティナ、市川の友人・有坂正嗣を若葉竜也、有坂の妻・ゆきのを志田未来、紗衣の浮気相手・荒川円を佐々木詩音が演じる。第35回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され、観客賞を受賞した。

映画.comより引用

稲垣吾郎ASMRかく語りき「パフェではない冷たいパフェ人生」


私は、寝る前にサンドウィッチマンのコントや誰かの対話を聴くのが好きだ。YouTubeを睡眠導入剤として使っている。最近は、ぽんぽこ24のバーチャルホストクラブでVTuberコーサカさんの女性を落とす会話をよく聴く。さて、そんな私にとって『窓辺にて』は夜間、テレビに流しっぱなしにして、稲垣吾郎と玉城ティナの掛け合いの中微睡みたいと思えるような作品であった。

文学賞の授賞式、玉城ティナ演じる久保留亜は記者から質問を投げつけられる。記者は念頭に欲しい回答があるらしい。しかし、彼女はその球にぶつかって返さない。言葉のドッヂボールにもならないような空間となっている。そんな中、フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)が質問する。そのやりとりはどこかぎこちない。しかし、彼女は彼のボールを受け止め返す。うすら笑みが溢れる。二人だけのキャッチボールが行われる。

彼女は市川のことが気になり部屋に呼び出し、やがて度々会う関係となる。その時の、相手の様子を伺いながら言葉の球を投げ合う間が、暗がりに差し込む陽光と反射し、眩しく心地よいものとなっている。

彼女は「パフェってどんな意味か知っている?」と質問を投げかける。

彼は少し間を置き「パーフェクト…フランス語でパーフェクトだよね。」と返す。

彼女はその返しに興奮し、そして大きさだけが取り柄のパフェは「パーフェクトではない。デカすぎるからだ。」と語り始め、チーズケーキこそパフェだと持論を展開する。今泉力哉監督の着眼点の面白さに惹き込まれる。『窓辺にて』は今までの彼の作品や、会話劇映画作家の濱口竜介の作品と違って自然体だ。アドリブなのではと思うほどに、稲垣吾郎と玉城ティナの会話に何気なさがある。例えば、ホテルでの会話シーン。彼女はマスカット一粒、床に落としてしまう。それをサッと拾う。一瞬、食べようかと悩むが、それはこの場に相応しくないと、机に置く仕草。この駆け引きにおける芸の細かさは、アドリブなのではと思うほどに自然なものがある。

さて、映画はそれ相応の年を重ねた市川が、すっかり冷めきってしまった愛を周囲の人生と照らし合わせていくことで自問自答していく内容へとシフトしていく。「完璧ではない人生」になんとなく満足する。そして、荒波立てぬように過ごすが、それ自体が他者を傷つけているのではないか?でもそれを他者に話して良いものなのだろうか?一手一手考えながら、囁き続ける稲垣吾郎。時として感情を爆発させる玉城ティナ。この二人が織りなすパフェに魅了され続けたのであった。夜更けに聴きたい。そして彼/彼女と共に心のモヤモヤを癒したい。そんな映画であった。

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※映画.comより画像引用