『Klondike』ウクライナ安全圏は…破壊された

Klondike(2022)

監督:マリナ・エル・ゴルバチ
出演:Oksana Cherkashyna、Sergey Shadrin、Oleg Shcherbina、Oleg Shevchuk、エフゲニー・エフレーモフetc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2022年国際的に注目されているウクライナ映画がある。『Klondike』はサンダンス映画祭でWorld Cinema-Dramatic部門で監督賞を受賞した他、第72回ベルリン国際映画祭パノラマ部門エキュメニカル審査員賞を受賞している。来年のアカデミー賞国際長編映画賞有力作といえる。実際に観てみると壮絶な内容だったので書いていく。

『Klondike』あらすじ

The story of a Ukrainian family living on the border of Russia and Ukraine during the start of the war. Irka refuses to leave her house even as the village gets captured by armed forces. Shortly after they find themselves at the center of an international air crash catastrophe on July 17, 2014.
訳:戦争が始まった頃、ロシアとウクライナの国境に住んでいたウクライナ人家族の物語。村が武装勢力に占領されても、家を出ようとしないイルカ。その直後、彼らは2014年7月17日に起きた国際的な航空事故の大惨事の渦中にいることに気づく。

IMDbより引用

ウクライナ安全圏は…破壊された

本作は実話からインスピレーションを得た作品だ。2014年ウクライナ紛争を舞台に、ロシア国境に近いドネツク州グラボベ村に住んでいるある夫婦の壮絶な日々を追っている。ビーチの壁紙が貼られた部屋をぐるっと撮るところから始まる。突然爆発が起きる。朝が来て気づく、壁紙の部屋は破壊され、外と地続きとなってしまっているのだ。本作が興味深いのは、ほとんど部屋の場面で扉が開いており、ぬるっと侵入されやすい構造になっている。これはロシアとウクライナの国境が、簡易的な仕切りで区切られており簡単に行き来できることを象徴している。そして、ロシアから侵略され、日常が崩壊していく様子をミクロな視点としての「部屋」、マクロな視点としての「大地」の構図で巧みに描く。

この2つの要素が同時に共存する異様な場面に注目してほしい。夫が壊れたアンテナを修復しにハシゴに登る場面がある、その遠くに大地が映っているのだが、よく観ると遠くで煙が上がっており、兵士や救命士と思しき人影が右往左往大地を駆け巡っているのだ。また、妻が悪阻で苦しんでいる場面。部屋は閉じられ、痛みに集中しようとする。しかし、そこに軍人が殴り込みに来て阻害される。唯一と言ってもいい部屋の扉が完全に閉まり、守られた空間になりつつある場面が兵士によって破壊されるのだ。

さて、主人公の夫婦はウクライナが侵攻され、日常が崩壊する中でその地に留まろうとする。しかし、事態は深刻になり逃げようとする場面がある。広大な地に出るのだが、家から見える惑う人影同様の目に遭う。これが胸締め付けられる。

広大な地、いくらでも逃げ場がありそうで死が横たわり四面楚歌となっている。袋の鼠となっていることに気付かされた際の絶望感。「そんなに嫌なら逃げればいいじゃない」と言う人がSNSで散見されるが、それは強者の理屈である。実際には、大地は死が無限に広がっており、安全ではないのだ。一寸先は死なのだ。だからこそ、妊婦はその地に留まろうとした。いや留まるしかできなかった。壊れてしまったユートピア、ハリボテ、引き裂かれたビーチの張り紙を背にただただ生きようとする者の痛みをとことん殴りつけてくる作品であった。

作品の雰囲気的に東京国際映画祭に来てもおかしくない作品といえる。

ウクライナ映画

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※MUBIより画像引用