『NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ 発明中毒篇』たまご好きすぎ問題

NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ 発明中毒篇

監督:チャーリー・バワーズ

評価:90点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

ユーロスペースの予告編を観て興味を抱いたサイレント映画特集『NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ 発明中毒篇』を観てきました。これがとても面白かったので1本ずつ感想を書いていきます。

1.とても短い昼食

アニメーション作品。キッチンからパイプを出してスープを注ぐ過程は後の『全自動レストラン』に繋がるものがある。システマティックなレストランを目指すも、それがどこか歪な形になってしまう滑稽さがたまらない。例えば、アップルパイを注文したお客さんに対して、店員が口の位置を調整し、食べ物を直接お客さんの口に投げ入れる描写がある。これは、客が自分の手で料理を頼んだり、店員が料理を運ぶ作業すら効率化し、直接胃袋にお届けする様の異常さを滑稽に表現している。また、アニメは物質に対して役割を変更させるのが得意な媒体であることに着目し、パンケーキをレコードにしてしまう場面がある。これはアニメらしいなと感じた。

2.たまご割れすぎ問題

短編映画の中ではオールタイムベスト級の大傑作。「たまごって割れやすいよね」と思い、割れないたまご製造機を作ろうとする話。ゴミ屋敷から飛び出し、オフィスの片っ端から卵を投げつけるパフォーマンスで迷惑をかけ、やがて巨大な割れないたまご製造機を作り上げる。弾力性のあるたまごを作ることに成功した彼は、たまご運送会社の役員を呼ぶが、肝心なたまごがない。ここからが実質の本編である。割れないたまご製造機は作ったが、それを試すために「たまご割れすぎ問題」と対峙することになるのだ。解決した問題を証明するために、再度問題に頭を悩ませる滑稽さ。そして、なんとかたまごを入手するものの、ストップモーションアニメーションでびっくりする展開を描いて魅せる。この自由さに感動した。

また、アクションとしても良くできており、列車に乗る知り合いを追いかけてなんとか乗り込むも、ふと息をついて後ろを見ると、知り合いが下車しているのに気づき狼狽する演出。これを言葉を発する事なくやってのけるところは素晴らしいと感じた。

3.全自動レストラン

今回の企画はセットリストが素晴らしく、『たまご割れすぎ問題』の次に、たまごをプレゼントとして渡す本作から始まる物語を繋げたのにニヤつく。好きな人の父親に、「娘と結婚したいです」と伝えに行くも、なぜかレストランでバイトする羽目に陥る。気がつけば、フロアに自分ひとり。地獄のワンオペが始まる。『たまご割れすぎ問題』に引き続き、爆破が抱腹絶倒のギャグとなっており、爆破後の世界の凄惨たるやに笑いが込み上げてくる。破壊をバネに、食事提供マシンを作るチャーリー・バワーズだが、これがまた滑稽である。複雑な操作により、人間が機械を操っているのではなく、人間が機械に使役されている状況が生まれる。そして、食べ物は種から作る気の遠くなるような過程となっているのだが、あまりに立派な機械なもんだからマネージャーはあっさりと受け入れてしまうのだ。複雑な技術は魔法に見えるとはまさにこのことと言えよう。

4.オトボケ脱走兵

伸縮自在なオブジェクトというアニメ特有の演出を使って、牛、車、家をびよーん、びよーん伸ばしてぶつける面白さに特化させた作品であった。

5.ほらふき倶楽部

銃を撃つネズミには猫をと、鉢から大量に猫を召喚する内容。チャーリー・バワーズのネタは、過剰さから笑いを引き出す系だと分かる。それにしても、なんちゅうところからクリスマスツリーを出しているんだ?

6.怪人現る

チャーリー・バワーズが相棒の虫と一緒に屋敷に現れた怪人を捕まえる話。怪人が右から左から奥から飛び出してくる。画自体は平面的なのだが、怪人の運動でもって奥行きが生まれてくるところが良い。小さな、虫が絶対怪人がいないであろうさらに小さいものを虫眼鏡で追ったり、罠を作るも、小さすぎて全く怪人に効かない残念さ、そしてあとちょっとで捕まえられるところなのに、「もう寝る時間なのでやめます」といって去っていく鬼畜さに爆笑した。本作は、他の作品と比べて凝った脚本になっており、怪人の正体が明らかにされた後の着地点は意外であった。

それにしてもサイレント映画時代のコミカルなアクションって、今の映画だとなかなか観られないものである。たまにミュージックビデオで見かける程度だ。なので、今こそサイレント映画を追うと新しい発見があると思う。

※映画.comより引用

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