『メタモルフォーゼの縁側』突如開いた異世界の扉へ飛び込む婆さん、狼狽する女子高生

メタモルフォーゼの縁側(2022)

監督:狩山俊輔
出演:芦田愛菜、宮本信子、高橋恭平、古川琴音、生田智子、光石研、汐谷友希、伊東妙子、菊池和澄、大岡周太朗etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

「好きは世代を超える」

これは私が身をもって感じることである。高校時代、映画の趣味を引っ提げて高校の外側にあるコミュニティに入り、30~50代以上の方々と対等に活動した。好きなことさえあれば、年齢、性別、人種超えて親密な会話ができる。映画は、自分の中で日本語とは別の言語として機能していた。それだけにお婆さんがBL漫画をきっかけに女子高生と同人誌を作る映画『メタモルフォーゼの縁側』は公開前から期待していた。ようやく観てきたのだが、想像以上に繊細な感情を扱った作品であった。

『メタモルフォーゼの縁側』あらすじ

鶴谷香央理の漫画「メタモルフォーゼの縁側」を芦田愛菜と宮本信子の共演で実写映画化し、ボーイズラブ漫画を通してつながる女子高生と老婦人の交流を描いた人間ドラマ。毎晩こっそりBL漫画を楽しんでいる17歳の女子高生・うららと、夫に先立たれ孤独に暮らす75歳の老婦人・雪。ある日、うららがアルバイトする本屋に雪がやって来る。美しい表紙にひかれてBL漫画を手に取った雪は、初めてのぞく世界に驚きつつも、男の子たちが繰り広げる恋物語に魅了される。BL漫画の話題で意気投合したうららと雪は、雪の家の縁側で一緒に漫画を読んでは語り合うようになり、立場も年齢も超えて友情を育んでいく。「8年越しの花嫁 奇跡の実話」の岡田惠和が脚本を手がけ、「青くて痛くて脆い」の狩山俊輔が監督を務めた。

映画.comより引用

突如開いた異世界の扉へ飛び込む婆さん、狼狽する女子高生

茹だるような暑さ、婆さん本屋逃亡。料理の本を探す、彷徨う本のジャングル。漫画コーナーから抜け出そうとすると、一冊の漫画にときめく。美しいと手に取った彼女は料理の本を買うのを忘れレジに直行する。そして、BLと出会った。強烈な描写に衝撃を受けるが、その甘美な魅力に取り憑かれ、連日本屋でBL漫画を買い漁る。そして、女性店員うらら(芦田愛菜)がBLに詳しいことを知り、定期的に会うこととなる。

この最初のきっかけの描き方がスマートである。我々の周囲には多くの異世界の扉があるが、普段は閉じている。あるいは気づかない。それがひょっとした拍子に開く。そこには魅惑の光が差し込んでいる。その刹那に飛び込むかどうか。それを街→本屋→BLコーナーのスムーズな移動と、本を手に取り、どうするか一瞬迷う停止で表現する。シンプルながらも、出会い方としてこれ以上にない描写と言えよう。そして、この婆さん井雪(宮本信子)はイケイケどんどんBLの世界に嵌っていくのだが、それに対する元々内部にいたうららの視点が繊細で好感を抱く。公の場でBLが好きなことをひた隠しにしているうらら。しかし婆さんや幼馴染、そして背の高くカリスマ性のある幼馴染のガールフレンドがライトに公の場でBL好きを公言している。それに対して時に狼狽し、時に「ズルい」とムッとした表情を向けるのだ。自分の「世界」だったものが、外部からの好奇によって瓦解し、みんなの「世界」になっていくことに対する葛藤を描いているのだ。これは、映画でもテレビで話題になる程持ち上げられると、急に手のひらを返したように貶す様子と少し重なるのかもしれない。

BLを茶化さず、でも本屋の一角を占めるほど社会的地位を得たことにより生じる問題に斬り込んでいく。しかし、「好き」の感情を優しく包み込むことを忘れない作劇の丁寧さに好感を抱いた。それだけに、幼馴染とガールフレンドのエピソードがあまりにもただ置いているだけで勿体無い気がした。ガールフレンド英莉役を演じた、汐谷友希の背がめちゃくちゃ高く、ひょっとして身長に言及することなく逆身長差カップルを描くことで日本映画の多様性の一歩前進となっているのかと思ったのだが、調べたら普通に高橋恭平の方が背が高かったので、果たしてこの映画に幼馴染設定は必要だったのかと疑問を抱いた。

P.S.この映画のために少しBL用語を学んできたのだが、特に予習は必要ありませんでした。ところで、「オメガバース」ってジャンルに興味を持ったのだが最初に何を読むのがいいのだろうか?

※映画.comより引用