【レオス・カラックス特集】『ホーリー・モーターズ』群れから連れ去るリムジン

ホーリー・モーターズ(2012)
HOLY MOTORS

監督:レオス・カラックス
出演:ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス、カイリー・ミノーグ、ミシェル・ピコリetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『アネット』を振り返る中で、『ホーリー・モーターズ』を観た。『ホーリー・モーターズ』は正直思い出補正が強い。高校3年の時に、フランス一人旅した際に映画館で観賞し、衝撃を受けたのである。その時は言語化できなかったのですが、今回観直してみて言語化できそうだったので書いていく。

『ホーリー・モーターズ』あらすじ

フランスの鬼才レオス・カラックスが、オムニバス「TOKYO!」(2008)以来4年ぶり、長編では「ポーラX」(1999)以来13年ぶりに手がけた監督作。生きることの美しさへの渇望に突き動かされる主人公オスカーが、富豪の銀行家、殺人者、物乞いの女、怪物など、年齢も立場も違う11人の人格を演じながら、白いリムジンでパリを移動し、依頼主からの指示を遂行していく姿を実験的な映像とともに描き出していく。主演はカラックス監督によるアレックス3部作(「ボーイ・ミーツ・ガール」「汚れた血」「ポンヌフの恋人」)のドニ・ラバン。

映画.comより引用

群れから連れ去るリムジン

顔がよく見えない客席にタイトルが表示される。レオス・カラックス監督が隠し扉を開けて映画館へ足を運ぶ。そしてドニ・ラヴァン演じる男の一日が始まる。リムジンで移動する。スケジュールが組まれており、最初はパリの橋で物乞いとして徘徊する。『ポンヌフの恋人』の再現をする。しかし、今にも倒れそうな彼を救うジュリエット・ビノシュはいない。老婆が近くに立ち、彼にぶつかりそうになるがギリギリ回避され、ボーイ・ミーツ・ガールなき虚無が演じられる。そのまま、次の現場へ移動する。

本作は、レオス・カラックスの集大成であり、過去作の批評となっておる。『ボーイ・ミーツ・ガール』や『汚れた血』、『ポンヌフの恋人』と彼の作品は男が女性に拾われ救われるような作品を描いてきた。本作では、ドニ・ラヴァンが女性を拾う、連れ去る挿話を連ねていく。印象的なのは、ゴジラのテーマ曲を背に暴れる怪人メルドのパート。「サイトに訪れて」とurlが書かれた墓石の海を抜けて、メルドはモデルの撮影会と遭遇する。舐めるように撮影する名カメラマンと好奇の眼差しを向ける群衆。そこから解放するようにメルドは彼女を連れ去るのだ。また、娘を俗なパーティから救い出し、悩み相談を受ける場面も、男が主体的となって女性を連れ出す物語となっている。廃墟のデパートから女性を救おうとする話も、男→女の構図となっている。とはいっても『アネット』を踏まえると、問題点もあり、この時点でのレオス・カラックスは女性を器として捉えてしまう癖から脱却できていない。メルドパートでは、地下にモデルを連れ込んだ後、ヒジャブを被せ独占しようとする場面があるのだ。群衆の眼差しから解放したメルドが、個人のものとして占有する話に着地してしまい、そこは別の角度が必要だった。

『ホーリー・モーターズ』を観てから10年が経ち、大分冷静に本作を観ることができた。相変わらず天才的な編集で、断片的なシーンをキメラのように結合していながらも、それが疾走するリムジンのように一つの運動の中で変わりゆく景色を魅せてくれ、大好きなのは変わらない。だが、今回は少しばかり欠点が垣間見えたと思う。

P.S.メルドパートの墓場について調べました。「レオスの上の肌(La peau sur Leos)」、「交わり(Des touches)」みたいなエロサイトっぽいurlが墓石に書かれており、サイト自体は存在しないのだが、唯一あるフランスドメインの”http://vogan.fr”は実際に特設のサイトに飛べる。『ホーリー・モーターズ』の軽い紹介ページがそこにありました。

レオス・カラックスの遊び心である。

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※映画.comより画像引用