『神は見返りを求める』神様はキョドってばかり、覗き部屋の隅で憎悪を宿しながら

神は見返りを求める(2022)

監督:吉田恵輔
出演:ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、栁俊太郎、田村健太郎、中山求一郎、廣瀬祐樹、下川恭平etc

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

邪悪な映画を毎回放つ吉田恵輔最新作『神は見返りを求める』を観ました。YouTuberの闇を描いた作品とのことで興味と不安が頭を掠めました。確かに安定の面白さはあったのですが、これがなかなか厄介な映画でありました。

『神は見返りを求める』あらすじ

ムロツヨシと岸井ゆきの演じる男女の本音と建前や嫉妬と憧れを描いた、「空白」「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督オリジナル脚本による異色恋愛ドラマ。合コンで出会った、イベント会社に勤める田母神と、ユーチューバーのゆりちゃん。再生回数に頭を悩ませるゆりちゃんを不憫に思った田母神は、見返りを求めずに彼女のYouTubeチャンネルを手伝うようになる。それほど人気は出ないながらも、力を合わせて前向きにがんばっていく中で、2人は良きパートナーとなっていく。しかし、あることをきっかけにやさしかった田母神が見返りを求める男に豹変。さらにはゆりちゃんまでもが容姿や振る舞いが別人のようになり、恩を仇で返す女に豹変する。田母神役をムロ、ゆりちゃん役を岸井が演じるほか、若葉竜也、吉村界人、淡梨、柳俊太郎らが脇を固める。

映画.comより引用

神様はキョドってばかり、覗き部屋の隅で憎悪を宿しながら

ひょこんなことからチャンネル登録者が少なく、アンチコメントが多いYouTuberゆりちゃんの活動を手伝うことになった田母神。微々ながらチャンネル登録者数を増やしながらも、時折、炎上を起こして火消しに追われるしょっぱい毎日を送っていた。しかし有名YouTuberとコラボするにつれて、ゆりちゃんは田母神を邪魔者のように扱ってくる。あれだけ尽くしたのに、なんて酷いことをするのだと彼は暴走を始めてしまう。

本作は、確かにYouTuberの動画をリアルに撮ろうとはしている。のっぺりとした画、過剰なテロップを再現しようとしているのだが、全体的に詰めきれていないイメージが強い。被写体全体を画に収めている。フォロワー数が少ないYouTuberとは思えない綺麗な構図を取っているのだ。また、中盤謎の過激派YouTuberが登場するのだが、ライトが強くて画が明るすぎるのだ。また、割とYouTuberの動画を観ている私からすると、煽りの動画にそこまで工数がかかる編集をするのだろうか?パオロ・ソレンティー『追憶のローマ』かと思う、ファッションショーの奥行き構図をわざわざ作るのか?ボディペインティングをあそこまで擦り倒すのか?と疑問が次々と湧いてくる。YouTubeの世界は広い、こういう動画もあると割り切ったとしてもかなりノイズが強く、ムロツヨシの超絶技巧な哀愁と狂気の演技で乗り切れないものがある。

吉田恵輔の悪意は今回も切れ味抜群であり、ゆりちゃんを嘲笑するコールセンターの人を後に彼女が嘲笑しながら去っていく逆転演出や、彼女が観客としてかつて座っていた場所に鋭い眼光を飛ばす田母神が座っている構図の気持ち悪さは素晴らしい。監督の過去に何かあったのではと思うほどの意地悪さに満ち溢れている。しかし、それに飲まれてYouTuberを冷静に分析できていないような気がして複雑な気持ちになった。

それでも重要な問いを投げかけている作品でもある。

「音楽や映画のように後世に残る方が良いのですか?」と他のメディアの無意識な優位性について指摘しているのだ。YouTuberやVTuberの動画は映画を観る体験以上に、またテレビ番組以上に「ライブ」なものであり、まるで近所の友達、学校の同級生のそばにある活動を観ているかのような近さがあるのだ。だから後世に残るよりも、「今」を味わうことが大事な領域といえる。『神は見返りを求める』はそこに踏み込んだ。映画がYouTubeに歩み寄った瞬間を捉えているところは好感を抱いた。

吉田恵輔作品の中で上位に入る問題作でした。映画仲間と話したいところだ。

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※映画.comより画像引用