『ツガチハ日記 /The Tsugua Diaries』あの夏、私たちは小屋を作った、映画を作った

ツガチハ日記(2021)
英題:The Tsugua Diaries
原題:Diários de Otsoga

監督:モーレン・ファゼンデイロ、ミゲル・ゴメス
出演:クリスティーナ・アウファイアチ、カルロト・コッタ、ジョアン・ヌネス・モンテイロetc

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

モーレン・ファゼンデイロとミゲル・ゴメスがロックダウン中に即興で作り上げた作品。ミゲル・ゴメス映画は毎回ピンとこないのだが、今回は刺さりに刺さった。

※イメージフォーラム・フェスティバル2022にて上映決定!

『ツガチハ日記』あらすじ

Follows Crista, Carloto and João who are building an airy greenhouse for butterflies in the garden and share household routines, but they are not the only ones.
訳:庭に蝶のための風通しの良い温室を作り、家事を分担するクリスタ、カルロト、ジョアンの3人の姿を追う。

IMDbより引用

あの夏、私たちは小屋を作った、映画を作った

まず、本作はジャック・ロジエ『オルエットの方へ』のように日記形式で日付が刻印され、何気ない日々が映し出される。しかし、21日目から逆再生されるように日にちが巻き戻っていく。紫と緑に覆われた幻想的な空間で踊り狂う。かと思いきや、陽光差し込む小屋での運動が捉えられる。時間は巻き戻るので、小屋が完成されていく様子を後追いすることになるのだ。

時間から解放されたバカンス映画のように、豊穣な時間の中で男女が小屋を作る。腐った果物が再生されていく。がらんとした室内。扉が閉まるのだが、それが絵画的構図となって、外の人をフレームに収める。なんてことない場面なのになんて美しいんだと感動する。

日本のバカンスといえば、刹那の余暇を埋めるように、スタンプラリーのように工程を消化する。時間から解放されることはない。故にエリック・ロメールやジャック・ロジエの豊かな時間が流れるバカンス映画を観ると感傷的な気持ちになる。本作もまた内なる感情を刺激し続ける。

ノーマスクでコロナ禍前の輝けるバカンスの質感をアーカイブしているのかと思いきや、扉が開く。異界の扉が開かれたかのように、防護服を着た人が立っており、箱を置く。カメラはそれを凝視する。冷気から現れたのは、虫だった。一気に、現実に、フィクションになってしまった現実に引き戻される。さらに、映画は撮影のディスカッションを映し出し、恋愛描写をどう演出するかについて延々と話し合うのだ。コロナ禍になり、軌道修正せざることとなったであろう状況下でどのように映画を作るかを同質の豊穣な空間に収めていくのだ。

即興的で、内容は希薄かもしれない。その性質ゆえ、観る人はかなり選ぶ。しかしながら、コロナ禍を前にどのように映画を撮るのかと考えた際に、コロナ前の輝ける刻のアーカイブと虚構が現実を侵食し始める今を、メタ的に撮影現場のシーンを織り交ぜて語るアプローチは鋭いと感じた。日記とは徒然なるままに書くもの。日によって感触は異なるだろう。その日記の特性を映画に持ち込んだことで本作は完全優勝を果たした。

日本公開してほしいし、なんなら劇場公開希望である。

※MUBIより画像引用