『東京2020オリンピック SIDE:B』巨大な不条理の渦中で彷徨う人々

東京2020オリンピック SIDE:B(2022)

監督:河瀨直美

評価:0点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2022年最大の問題作『東京2020オリンピック』2部作。前作SIDE:Aは観客が私だけという不気味な状況で観賞したのですが、オリンピック映画なのかと思うほどにアスリートの肉体美や勝敗に興味のない演出に包まれた作品であった。SIDE:Bはアスリートを支える人を中心に撮ったとのことで、予告編を観るとコロナによる五輪延期騒動から始まる混沌を捉えている印象があった。蓋を開けてみれば、確かにそうだったのであるのだが、これが想像を絶する酷さで、酷いというかよく公開できたなと思うほどの特級呪霊であった。

『東京2020オリンピック SIDE:B』あらすじ

2021年に開催された東京2020オリンピックの公式ドキュメンタリー映画2部作の1作。新型コロナウイルス感染症の世界的パンデミックにより、近代オリンピック史上初の開催延期となった東京2020オリンピック競技会は、当初より1年遅れた2021年7月23日、いまだ収まらないコロナ禍、史上初の無観客開催、関係者の相次ぐ辞任など、さまざまな問題や課題を抱え、賛否が渦巻くなかで開幕。17日間でオリンピック史上最多となる33競技339種目が行われた。公式ドキュメンタリー映画は、そんな異例づくしとなった大会と、開催に至るまでの750日、5000時間に及ぶ日々をつぶさに記録し、「SIDE:A」「SIDE:B」の2部作で公開。表舞台に立つアスリートを中心とした「SIDE:A」に対する本作は、大会関係者や一般市民、ボランティア、医療従事者などの非アスリートの人々にスポットを当てた。大会がスタートしてもなお、さまざまな課題に直面し、休むことのないバックステージの様子を映し出し、困難なミッションに取り組む人々の姿を描いていく。カンヌ国際映画祭の常連として世界的にも知られる河瀬直美が総監督を務めた。

映画.comより引用

巨大な不条理の渦中で彷徨う人々

SIDE:AがファイナルならSIDE:Bはビギニング。つまり、東京2020オリンピック開催前を描く内容となっている。前作がアスリート目線ならこちらはバックサイドを描く。にもかかわらず、ガッツリ序盤からアスリートの活躍を描く。それが何故か、予選敗退するところを嫌らしく撮るのだ。男子陸上リレーにおいてバトンを落として失格となる瞬間を、何カットもスローモーション入れて映すのだ。他にも交通事故に遭うアスリートを映していたり、悪意すら感じる場面選びをしている。そしてバックサイドに映る。選手村の食事を担当する人物のパートが始まるのだが、試食会で散々な評価となっているところを捉えているのだ。とことん負の側面を映していく。そして、カメラはトーマス・バッハと森喜朗に向けられる。トーマス・バッハが子供相手にガチのフェンシングで勝つ場面、「五輪反対」を訴える人に対して煽る場面を捉えていく。森喜朗は「わきまえている女性」発言で炎上し、会見をするも露骨な面従腹背、形式だけ謝っている。なる程、通りでテレビで全く宣伝もされなければ、映画館ですら予告編がかからない訳だ。オリンピック関係者が見たくない恥部をひたすら魅せるのだ。当然、すっかり忘れていたあのコカコーラの車が激しく行進する寒いパレードも映っている。これだけ聞くと、オリンピック批判映画として面白いと思うかもしれない。

これが全くもって面白くないのだ。全部が中途半端なのだ。SIDE:Bにまでアスリートの物語を持ち込んだことで、2部構成にする意味が希薄となってしまい、ただ4時間の映画を2本に分割しただけに見える。そして、前作から当然のように改善されていない異様なクローズアップ。被写体の顔をドアップに左へ寄せているのに、被写体の視線は左を向いていることで、画面の右を完全に殺す構図は相変わらず異常としか言いようがない。そして、文字感覚がスカスカな庵野秀明テイストの文字アートよ!あれはなんだ?確かに庵野秀明の文字アートのルーツは市川崑の『犬神家の一族』。『東京オリンピック』の監督だ。このオマージュは市川崑に通じている。しかし、あの文字感覚のスカスカさはどうにかならなかったのか?あまりにも雑な文字組みに頭が痛くなりました。

そして、何よりも映画全体のテンションが不気味だ。コロナの逆境に負けずに闘うバックサイドの人間は映る。しかし、どこか精気を感じられない。トーマス・バッハも森喜朗も小池百合子も巨大な不条理の中の歯車として職務を淡々とこなすような動きをしており、この映画に人間は沢山映っているのだが、人間は映っていなかったのだ。これは我慢強い日本人が、不条理の中で諦めてしまい、その不条理を受け入れ魂が失われている状況を後世に伝える作品だったのだろうか?

いずれにしろ、体感時間4時間に感じた後編は、虚無に覆われた魔界であったことを報告します。劇場は10人ぐらいいましたけれど、やはり多くの人は『ベイビー・ブローカー』やホン・サンス映画を観ているのだろう。それは正しい選択だと思います。

P.S.本作は公開直前に公式サイトで下記のように、藤井風が音楽担当を降板しているんですよね。闇が深すぎる。

※映画.comより画像引用