『フェアリーテイル』歴史上の人物はあの世で思想を冷却保存される

フェアリーテイル(2022)
Fairytale

監督:アレクサンドル・ソクーロフ
出演:イゴール・グロモフ、ヴァフタング・ クチャヴァetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第35回東京国際映画祭にアレクサンドル・ソクーロフ監督新作『フェアリーテイル』が来るとのこと。本作はヒトラーやチャーチル、イエス・キリストなど歴史上の人物をディープフェイクを用いてあの世のような空間に集めた作品とのこと。実際に観てみるとソクーロフ映画史の集大成ともいえる作品であった。

『フェアリーテイル』あらすじ

ロカルノ映画祭でワールド・プレミアを飾ったソクーロフの最新作。黄泉の国を思わせる廃墟のなか、歴史上の独裁者たちが語り合う。ソクーロフ独特の映像美が全編にわたって展開される驚異の映像詩。

第35回東京国際映画祭サイトより引用

歴史上の人物はあの世で思想を冷却保存される

『モレク神』でヒトラーを、『牡牛座 レーニンの肖像』でレーニンを、『太陽』で昭和天皇を描いてきたアレクサンドル・ソクーロフ。いずれの作品も歴史上の人物を「個」として描こうとしてきた。『エルミタージュ幻想』ではエルミタージュ美術館に眠る「過去」をワンカットで幻想的に描くことで地続きのものとして捉えた。『フランコフォニア ルーヴルの記憶』はルーヴル美術館にある展示物や過去を掘ることで歴史に埋もれた個人を描こうとした。

そんな彼が最新作『フェアリーテイル』で描くのは、死後の世界である。イエス・キリストやチャーチル、ヒトラーがあの世のような空間で各々ぶつぶつ呟きながら彷徨い続ける78分。素材自体はフッテージだったり絵であるのだが、ディープフェイクを使うことで、ヌルッと動く。不気味の谷まっしぐらな挙動に観てはいけないものを観ているような気分にさせられる。それをメタ的に演出するためか、巨大な扉の前にヒトラーたちが集まり、扉の先を覗くかどうか延々とディスカッションして、中々扉の先に行かない描写がある。

ソクーロフ監督は実験的な作風でありながらも空間構図はビッチリと決めてくるから飽きることはない。例えば、絵巻のように横移動する場面がある。風景画の端に人が現れたかと思うと、やがて右下からも人が出てきて、視線の交わりが出てくる構図がある。また、融解する群衆の波を前にヒトラーがにこやかに手を差し伸べる場面を通して、歴史上の人物の思想は、死後、冷却された「過去」として保存されていくものだと語っている。その上で、偉人同士の思想のドッヂボールともいえるやり取りは興味深い。ヒトラーがチャーチルに触ろうとすると、「触るんじゃねぇ」とキレられる場面があり、同じ空間にいながらも水と油のように交わることのない想いが投影されている。

映画館で観ると5分で寝落ちする可能性がある作品でもあるので、第35回東京国際映画祭で観る際にはエナジードリンクを飲む等して奇妙な世界に足を踏み入れてみてください。

※第35回東京国際映画祭サイトより画像引用