『ガール・アンド・スパイダー』狭い部屋、ウザい人、そこに聖域はあるのか

ガール・アンド・スパイダー(2021)
英題:The Girl and the Spider
原題:Das Mädchen und die Spinne

監督:Ramon Zürcher,Silvan Zürcher
出演:ヘンリエッテ・コンフリウス、Liliane Amuat、ウルシーナ・ラルディ、Flurin Giger、アンドレ・ヘンニック

評価:100点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

カイエ・デュ・シネマベストテン2021にて8位に選出された『ガール・アンド・スパイダー』を観ました。Ramon Zürcher&Silvan Zürcher監督のことは全く知らなかったのだが、これがとてつもなく面白かった。

『ガール・アンド・スパイダー』あらすじ

Lisa is moving out. Mara is left behind. As boxes are shifted and cupboards built, abysses begin to open up and an emotional roller coaster is set in motion. A tragicomic catastrophe film. A poetic ballad about change and transience.
訳:リサが引っ越す。残されたのはマーラ。箱が移動され、食器棚が作られるにつれ、深淵が開かれ始め、感情のジェットコースターが動き出す。悲劇的なカタストロフィーの映画。変化とはかなさについての詩的なバラード。

IMDbより引用

狭い部屋、ウザい人、そこに聖域はあるのか

部屋の設計図が映し出される。そして実際の部屋が映し出され、忙しなく人が引っ越しに伴う作業を行なっている。その中心にヘルペス持ちの女性マーラが突っ立っている。彼女はフラフラ部屋をフラつくが、全く作業の手伝いをしようとしない。リザと会話をすると、少し嬉しそうにするが、他者の眼差しや声かけによって邪魔されるとムッとなる。どうも引っ越し前に二人は親密な関係になっていたようだ。しかし、リザはマーラを弄ぶように離れていく。

本作は、引っ越しを中心にマーラとリザの関係が変化することによるモヤモヤした感情を眼差しや人間の運動の圧倒的な手数でもって紐解いていく。そのスタイリッシュな演出に100分間まったく目が離せない。二人が会話をし、マーラが少し微笑むとカットが切り替わり、リザの母親の鋭い眼差しが映り込み、関係が崩壊するのは序の口。他の登場人物の思惑まで画の切り返しが巧みに使われ始める。扉を閉めると、手前に親密な関係となっている群ができあがる。その前を扉を持った女性が横切る。次のショットでは、扉を閉めたことで親密な関係から切り離され、個の領域に入った女性が映し出されるのだが、彼女の背後を取る人がいる。

まるで、『トップガン』のようにいつの間にか背後を取られてしまう快感がここにあるのだ。また、背後を取られる、死角から眼差しが向けられるアクションは、葛藤を抱える者が一人の世界に入るのを阻むことを示唆している。我々も、一人になって考えたいが、他者の介入によって土足で踏み込まれ嫌な思いをすることがあるだろう。意中の人と良き時間を過ごすには群の中に入らなければいけないが、その行為には一人の時間を犠牲にする代償がつきもの。リザとマーラの関係でなく、リザの母親含め、無数の人の思惑が、仕舞いには犬までもが参加し、蜘蛛の巣上にアクションを紡いでいく。この異様な宇宙にひたすら興奮した。

無論、人間関係があまりに複雑なので一度で理解したとは言い難い。再観して、またこの宇宙へと飛び込みたいものだ。

カイエ・デュ・シネマベストテン2021

1.First Cow
2.アネット
3.MEMORIA メモリア
4.ドライブ・マイ・カー
5.France
6.フレンチ・ディスパッチ
7.All Hands on Deck
8.The Girl and the Spider
9.The Card Counter
10.Benedetta