『THE CARD COUNTER』男は運命を数える、再び暴力のカードを引き当てぬように

THE CARD COUNTER(2021)

監督:ポール・シュレイダー
出演:オスカー・アイザック、ウィレム・デフォー、タイ・シェリダン、ティファニー・ハディッシュ、エカテリーナ・ベイカーetc

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『タクシードライバー』の脚本家として知られ、今でもコンスタントに監督、脚本作を世に放っているポール・シュレイダー。彼の新作『THE CARD COUNTER』が第78回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門に出品された。予告編を観る限り、ソダーバーグ映画のような作りをしていたのですが、観てみると『魂のゆくえ』から進化したブレッソンショットが楽しめる大傑作でした。

『THE CARD COUNTER』概要

Redemption is the long game in Paul Schrader’s THE CARD COUNTER. Told with Schrader’s trademark cinematic intensity, the revenge thriller tells the story of an ex-military interrogator turned gambler haunted by the ghosts of his past.

※IMDbより引用

男は運命を数える、
再び暴力のカードを引き当てぬように

ウィリアム・テル(オスカー・アイザック)は、カジノを渡り歩いて生きている。配られたカードに点数をつけ、頭の中で数え、確実に勝てるときだけ賭ける。タイトルにもなっている「THE CARD COUNTING」で生活費を稼いでいるのだ。往年のカジノ映画と比べて特記すべきは、ウィリアム・テルの禁欲的なまでの賭け方にある。通常であれば、一番の大勝負で大金を賭けたりするのだが本作では徹頭徹尾、勝負から逃げ続けるのです。オーナーにマークされる前に席から立ち上がり、750$換金して店を後にする。明らかなファムファタールと共に行動してもそのスタイルは持続され、「USA,USA」とイキリながら豪快な賭けをしている輩に対しても、あっさり白旗を上げて撤収するのだ。

そんな彼の禁欲的な生活は、モーテルでも垣間見れる。何故か部屋に入ると、椅子やランプを布で覆い、埃ひとつ寄せ付けないような部屋で、自前のパソコンを覗き、手記を書く生活を送っているのだ。

『魂のゆくえ』でロベール・ブレッソンの『田舎司祭の日記』さながら、孤独な牧師が息苦しい閉塞感の中で病んでいく様子を捉えたシュレイダー監督が、同様の禁欲的ショットで彼が過去の暴力から逃れようと足掻く様子が紡がれていく。

ウィリアム・テルは、かつてアブグレイブ刑務所で捕虜虐待を行っていた罪で8年半収監されていた。彼はその時の暴力から逃れるために、運命を数えていたのだ。重要となってくるのは、アメリカ万歳ギャンブラーの存在だ。彼のいく先々で、彼らは大暴れしている。避けようにも、段々と彼らの方から近づいていく。そして内なる暴力の門を開けようと、ウィリアム・テルの内なる世界に入門してこようとするのだ。これはSNSに、絶えず声が大きい者の暴力が流れてきて、自身がその暴力に引き摺り込まれそうになることを象徴しているようだ。そして、彼が生活に必要なだけを稼ぐことに徹するのは、資本主義によってひたすら過剰な利益を求めようとすることへの反発とも取れる。つまり、この映画におけるアメリカ万歳ギャンブラーとは、可視化された現代社会の暴力そのものと言えるのだ。

そして、この映画がフィルムノワール の体裁を取っているので、案の定、闇の引力にウィリアム・テルが引っ張られてしまう。だが、その引っ張られる要因として直接ファムファタールとしてのラ・リンダ(ティファニー・ハディッシュ)を使わないところに新鮮さを感じる。それどころか、彼女とのロマンスも一箇所恍惚としたデートシーンを挟む程度に留めているというストイックさだ。また、映画を盛り上げるスパイスとして魚眼カメラによる長回しを使うことによって、ブレッソン頼りになってしまうことを回避しているところにもグッと来た。

地味な映画であり、観る人を選ぶ作品ではありますが、私はこの映画のドラマに涙し、カッコいい画の連続に痺れました。日本公開は未定ですが、できれば劇場公開決まって欲しいと願っています。

※IMDbより画像引用