【東京国際映画祭】『蝶の命は一日限り』お婆さんの情熱は永遠

蝶の命は一日限り(2022)
Butterflies Live Only One Day

監督:モハッマドレザ・ワタンデュースト
出演:マンザル・ラシュガリ、マルヤム・ロスタミ、ネダ・ハビビetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

東京国際映画祭には、これを逃したら今後ほとんど観ることのできない作品がある。なので、有名監督作よりも全く情報がない監督作品を観ると意外な発見があり、映画祭の醍醐味を味わうことができる。今回、ヴィジュアルが綺麗なイラン映画『蝶の命は一日限り』にピンと来たので観てみた。これが大当たりだった。

『蝶の命は一日限り』あらすじ

かたくなに沈黙を貫き、誰とも話さない老女。彼女の唯一の望みは、湖に浮かぶ島への立ち入り許可を得ること。そこには彼女を待っている人がいる。しかし、13年経っても入島許可が下りず、彼女はある手段に訴える…。

※第35回東京国際映画祭より引用

お婆さんの情熱は永遠

お婆さんがいた。どうやらこのお婆さんは何かを懇願しているらしい。国からも知られている有名なお婆さんらしい。書類手続きはかなりのところまで進んでいるみたいだが、実行するにはまだ壁があるように見える。そんなお婆さんの歩みがじっくりコトコト煮詰められる。象徴的なアイテムが幾つか現れる。メガネを作る際の器具は、盲目になりつつある状態で「想い」だけは鮮明に捉えていこうとする渇望として映し出される。部屋の壁に並べられたガラスの破片に映る川の景色は、「想い」の断片として反射する。では、お婆さんの「想い」とはなんだろうか?観客は77分という短い時間ながらも辛抱強くお婆さんの歩みに付き合うこととなる。

本作が面白いところはこのお婆さんの歩みの描写である。ここに面白い演出がたくさん詰まっている。例えば、階段を昇るお婆さんを映す場面。カメラは三角状の階段を見下ろす。お婆さんがゆっくりゆっくり杖をつきながら、う…う…と唸りながら数分かけて昇る様子をカットなしで描く。また、お婆さんの歩みより早い速度でカメラはパンしていき、やがてゴミ捨て場に到着するのだが、何故かお婆さんの方がカメラの前を歩いている。時間跳躍の演出が挿入されている。仕舞いには、夢のパートで彼女がスパイ映画さながら某施設に潜入するのだが、近づいているのかどうかが分かりにくい妙な速度で迫ってくる。

ユニークな演出を通じて、「想い」の正体へと導かれる。内容自体は実話に基づいたものとはいえ、シンプルすぎる話なものの、それを語る手法の豊穣さ。それが彼女の歩みに寄り添い力強いものへと昇華させる演出となっていたところが面白かった。こういう映画は映画祭でしか出会えないものである。

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※第35回東京国際映画祭サイトより画像引用