【ネタバレ考察】『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』神の眼差しを奪い、決定的瞬間を眼に焼き入れる

オカルトの森へようこそ THE MOVIE(2022)

監督:白石晃士
出演:堀田真由、飯島寛騎、筧美和子、宇野祥平、白石晃士、佐々木みゆ、中野英雄、池谷のぶえetc

評価:95点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、『NOPE/ノープ』スペースをした際に、映画仲間が「NOPEよりNOPEしてた」と『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』を絶賛していたので観てきた。ホラー映画が苦手で、特に日本のホラー映画は滅多に観にいくことがないのだが、『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』は新鮮な面白さがあった。と同時に、『クローバーフィールド/HAKAISHA』以降のPOV表現を語る上で重要な作品に感じた。ネタバレありで書いていく。

『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』あらすじ

「不能犯」「ノロイ」の白石晃士監督による「WOWOWオリジナルドラマ オカルトの森へようこそ」の劇場版で、異界とつながる祟りの森に足を踏み入れた人々の恐怖をPOV(主観視点)で描いたホラーアドベンチャー。

ホラー映画監督の黒石光司は実録映画の撮影のため、助監督の市川美保を連れて山奥の家を訪れる。そこには、黒石の映画の内容と全く同じ体験をしたと訴える美女・三好麻里亜がいた。やがて黒石のカメラは奇妙な現象を次々と捉え、思わぬ恐怖が彼らを襲い、カメラはその恐ろしい出来事の数々を記録していくが……。

出演は、助監督・市川役の堀田真由、麻里亜役の筧美和子のほか、飯島寛騎、宇野祥平ら。ドラマ版にはない劇場版限定の短編「訪問者」を同時上映。

映画.comより引用

神の眼差しを奪い、決定的瞬間を眼に焼き入れる

本作は冒頭にて短編映画「訪問者」が上映されるのだが、これがまず素晴らしい。インターホンの魚眼カメラから、フレームの外側にある存在に言葉を投げかける怪しい男が映し出される。次に、部屋の中にカメラは映る。監視カメラの位置から空間を捉えていく。男が訪問してくるのかと思いきや、なかなかインターホンが押されない。やがて、ピンポンとインターホンが押され男が現れる。どうやら彼には幽霊が見えるようだ。スマホで決定的瞬間を捉えようとするが、中々仕留めることができない。そしてある諍いが起きる、カメラはスマホから監視カメラの視点に映る。監督が目を逸らした隙に、異形が姿を表す瞬間を観客は目撃することとなる。また、映画は巻き戻され、スマホにも異形が映っていることを証明する。決定的瞬間を撮ることの困難さと、決定的瞬間とは撮影者が決定的瞬間であることに気づくことで成立するものであると物語っている。その上で、映画とは登場人物を客観視することで、登場人物が知らない決定的瞬間を目の当たりにすることでもあると理論づけている。

この短編を踏まえて、本編を観ると非常に面白い。本編は、とある取材で森にやってきた黒石光司監督(白石晃士)が助監督である市川美保(堀田真由)。取材対象である三好麻里亜(筧美和子)の家は、たくさんの張り紙が貼っており禍々しい雰囲気を放っている。カメラが玄関に近づくと、想像以上の大きさに観る者も不気味さを覚えるであろう。肝心な、三好麻里亜は情緒不安定であり、笑っているかと思いきや、「マリアと呼べ」と怒り始めたりする。逆鱗の勘所が分からない居心地の悪さが流れる。質問に質問で返すことでヒントを得ようにも、それすら許されないまま家の中を案内されると、怪奇現象が起き始める。

この手のホラーは『パラノーマル・アクティビティ』、『REC/レック』など荒い画の中に怪奇が映る傾向がある。しかし、本作では映画用のカメラで、しかも日中による撮影の中で起こる。扉がギィと開閉し、壁の張り紙が不自然に揺らめく。家全体が化け物のような動きをする。人間は闇に不安を覚える。裏を返せば、光があれば怖くないといえるのだが、光がある状態でも容赦なく怪奇が襲い掛かることで逃げ場のない絶望感を与えることができる。逃げ場のない状態によりパニック状態が誘発される。パニックになると、人は冷静な判断ができなくなる。ガラス窓を破壊して出る選択肢を取らず、必死に開かなくなった玄関から出ようとするのだ。

そんな状況を、宇野翔平演じるサイコパスなヒーロー江野翔平が現れ打破してくれる。彼に導かれるように、巻き込まれる形で追ってくる異から逃げることとなる。一度、非現実的な世界へ足を踏み入れたら戻れないものだ。監督は観客の代弁者として、次々と現れるジャンプ漫画のような人物や呪術対決を目の当たりにする。短編映画「訪問者」において観客は、登場人物が見ることのできない決定的瞬間を目撃する優位性を意識させられるが、本編では常に監督が持つ視野しか与えられない。登場人物と同じ立場で、決定的瞬間を探すこととなるのだ。

そして、映画は決定的瞬間を多彩な手数で持って提示していく。江野翔平が宗教団体の幹部と対決している様子を凝視していると、フレームの外側からナイフが飛んできて彼に刺さる。パーティションに向かって彼が発砲すると、バタッと人が倒れる。ナナシ(飯島寛騎)は憑依された者、異形を蹴散らす。死を与え、復活する瞬間もバッチリとカメラに収まる。

一見するとチープな映画ではあるが、非現実的な世界で、江野翔平やナナシがさも当然かのような振る舞いをすることでジャンプ漫画のような世界がリアルなものとして映り、その中で順応していく監督を通じて観客も世界観へ没入していく。神の眼差しを奪い、当事者へと引き摺り込むことで生まれる友情勝利のドラマに感動した。

2022年・年間ベスト候補の大傑作である。

※映画.comより画像引用