『リコリス・ピザ』愛激る、熱茹だるあの夏へようこそ!

リコリス・ピザ(2021)
Licorice Pizza

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー、ベニー・サフディ、Will Angarola、Griff Giacchino、James F. Kelley、エマ・デュモンetc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

待ちに待ったポール・トーマス・アンダーソン新作『リコリス・ピザ』が公開された。今回は、青春映画とのことなのだが果たして…

『リコリス・ピザ』あらすじ

「マグノリア」でベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞したほか、カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界3大映画祭の全てで監督賞を受賞しているポール・トーマス・アンダーソン監督が、自身の出世作「ブギーナイツ」と同じ1970年代のアメリカ、サンフェルナンド・バレーを舞台に描いた青春物語。主人公となるアラナとゲイリーの恋模様を描く。サンフェルナンド・バレー出身の3人姉妹バンド「HAIM(ハイム)」のアラナ・ハイムがアラナ役を務め、長編映画に初主演。また、アンダーソン監督がデビュー作の「ハードエイト」から「ブギーナイツ」「マグノリア」「パンチドランク・ラブ」など多くの作品でタッグを組んだ故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンが、ゲイリー役を務めて映画初出演で初主演を飾っている。主演の2人のほか、ショーン・ペン、ブラッドリー・クーパー、ベニー・サフディらが出演。音楽は「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」以降のポール・トーマス・アンダーソン作品すべてを手がけている、「レディオヘッド」のジョニー・グリーンウッドが担当。2022年・第94回アカデミー賞で作品、監督、脚本の3部門にノミネート。

映画.comより引用

愛激る、熱茹だるあの夏へようこそ!

長いナンパシーンから始まる。年上の女性アラナ(アラナ・ハイム)に想いを寄せるゲイリー(クーパー・ホフマン)はグイグイ、彼女に話しかける。それを長回しで捉え、最後に光の方へ去る彼と、カメラに向かって戻ってくる彼女を捉えることで、本作は近くて遠い男女の親密さの映画だと物語る。彼の推しの強さによって二人は惹かれ合い、共にウォーターベッド売りの仕事をする。スマホなんてない時代。将来なんて見えないから無限大に可能性がある時代。そんな時代のロマンを愛激る、熱茹だるあの夏へようこそ!とポール・トーマス・アンダーソンはみずみずしい画で描く。タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』同様、本作は世界観の構築に全力が注がれている。ハリウッド大作が、チェックポイントを通過するだけの映画に成り果ててしまったことへの抵抗か?脇道にそれにそれまくり、物語は無軌道に駆け回る。猥雑、混沌、汗臭い画の連続により、観る者は世界に没入する。オープンワールドな世界の中で、男女のみずみずしい青春を目撃する映画となっているのだ。

故に、今回はポール・トーマス・アンダーソン映画の中で最も観る人を選ぶ作品であり、乗れないとかなりキツい。そして私もその一人で、警察署に連行されるくだりの「移動」のユニークさこそ惹かれたが、中盤まで退屈してしまった。それにシネフィル監督であろう彼が、日本の青春キラキラ映画ばりの走るアクションを頻繁に盛り込んでいるのだが、手数が少ないのにガッカリした。『危険な場所で』の飛び出しUターン走りの一つや二つ欲しいところだ。

しかし、中盤から一変する。

恒例の『メルビンとハワード』オマージュを披露し始めてから急に面白くなった。ショーン・ペン演じる男が酔っ払いながらバイクスタントをする。アラナを乗せたバイクが走り出すのだが、彼女はその場でコテんと転倒してしまう。走りくるバイクに対してゲイリーが走り出し、アクションが交差するこのカッコ良さに痺れた。ただ、これはポール・トーマス・アンダーソン監督の伝統芸なので想定内だ。想定外なのはその後の修羅場シーンにある。

怖い富豪の家にプールを設置する挿話。アラナたちは、富豪から逃げようとトラックで移動するのだが、お出かけ中の彼とばったり遭遇し、ガソリンスタンドまで行く羽目になる。ガソリンスタンドで彼が暴れている間に、トラックで逃走。道中にあった彼の車をゲイリーが腹いせに破壊していると、トラックは燃料切れとなってしまう。このままだとリンチ不可避絶体絶命だ。その修羅場をどうやって切り抜けるのか?トラックを押し、坂に転がすのだ。アラナが後ろ向きで走るトラックを巧みに操る。この緊迫感。そしてやがて道路の真ん中で停車し緊張が解けた際の快感。夜が明け、男たちがガソリンを持って猥雑に動き回る感傷的な青春の影絵よ!映画でなければ観ることができないであろう極限を至近距離から、緊迫感持って描ききる。このシーンだけは100回は観たいほど素晴らしかった。

全体的にNot For Meかなと思いつつも、手堅く自由なポール・トーマス・アンダーソンの世界にそう悪くはいえないのだ。

とりあえず、ロバート・ダウニー・シニアの映画観ないとなぁ。

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※映画.comより画像引用

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