『ゴーストブック おばけずかん』狭くて広い摩訶不思議ワールド

ゴーストブック おばけずかん(2022)
GHOSTBOOK

監督:山崎貴
出演:城桧吏、柴崎楓雅、サニーマックレンドン、吉村文香、釘宮理恵、下野紘、杉田智和、大塚明夫、田中泯、神木隆之介、新垣結衣、鈴木杏、遠藤雄弥etc

評価:80点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

山崎貴最新作『ゴーストブック おばけずかん』が公開された。山崎貴監督は某ラジオのおかげで叩かれ屋監督のイメージが強くなっているが、当たり外れが大きいだけの監督であり『アルキメデスの大戦』や『DESTINY 鎌倉ものがたり』は面白かった記憶がある。そして今回はどうも当たりの匂いが漂っている。ということで観てきました。これがなんと山崎貴監督最高傑作と言える仕上がりになっていた。

『ゴーストブック おばけずかん』あらすじ

「ALWAYS 三丁目の夕日」の山崎貴監督が、子どもたちに人気の童話シリーズ「おばけずかん」を実写映画化。寝静まった子どもたちの枕元に現れて「願いをかなえたいか?」とささやく謎のおばけ。どうしてもかなえたい願いがある一樹たちは、学校で噂になっているそのおばけに導かれ、「おばけずかん」を探すことに。あやしい店主がいる迷路のような古本屋で図鑑を手に入れたものの、古本屋から出ると、そこには知らない世界が広がっていた。一樹たちは図鑑の秘密を知る図鑑坊の助けを借りながら、おばけたちを相手に命がけの試練に挑むが……。一樹を「約束のネバーランド」「万引き家族」の城桧吏、子どもたちと一緒に冒険する臨時教員・瑤子先生を新垣結衣、物語の鍵を握る謎の古本屋店主を神木隆之介が演じる。

映画.comより引用

狭くて広い摩訶不思議ワールド

日本の大衆娯楽映画にありがちな間伸びした展開が全くなく、RTAばりの速度で、異界に子どもたちが旅立つ。そしてテンポ良く、おばけを捕獲していく様子を観ると、簡単に早送り再生されてしまう今に歩み寄っているんだなと思う。このスピード感によって、少々臭い芝居は中和されている。

だが、私はそんなことを言いたいのではない。この映画は白組のVFXの最高傑作とも言える高度な技と面白いギミックがぎっしり詰まった宝箱だったのだ。突如、町に現れた古本屋。そこへ入ると、迷路のように入り組んだ空間が広がっている。本屋の男から逃げるように子どもたちが駆け回るところを上からカメラは捉える。すると、このフロアが遥か高層階に位置することが分かる。この縦方向の広がりによって、観る者も少年と同様、異界へと引き摺り込まれる。

そして逃げるようにして本屋を出た3人の少年と新担任は町を彷徨う。それは現実とよく似た非現実だった。バグった世界のように、屋根が側面についていたり、文字が読めそうで読めない。しかし、日本語に見えるから少年たちは何気なく素通りし、スマホの通信が取れないことに気づいてから周りが見えてくる。担任の先生の家は、カラクリ屋敷と豹変しており、招き猫の首と胴体が、あり得ない形で家具と結合していたり、ランプが異様な角度から生えていたりする。少年たちが小部屋に入ると、部屋ごと移動が始まり、先生の背後から現れる。そして、彼らが丘を登る。カメラは簡単に目線の先を映さない。絶望的な目が、あることを解決しないとこの空間から出られないことを物語る。そして、実際の崖を魅せる。このさりげないショットにも切れ味が宿る。

こんな環境で寝泊まりしながら、おばけを捕獲しないといけない。しかし、異界は異界でも現実の延長線のような空間。ごちゃついた場所であってもすぐに順応し、目的に集中するようになる。この描き方が実に豊かで面白い。狭い空間をパズルのように入れ替えることで、広く見せる。そして少年たちを環境に順応させることで、観客をおばけに集中させる。ギミックとおばけが反発しないようにしながらも、VFXで何ができるのかを突き詰めた演出に感動すら覚えた。

おばけ捕獲パートも秀逸だ。カードキャプターさくらのように、杖で封印するのではなく、本を押し付ける超近接攻撃という非常に難易度の高い捕獲方法に対して、術中に嵌めることで攻略していく展開は熱いものがある。また、捕獲したおばけを召喚できるギミック。2時間という短い時間の中で、適材適所使い込むスマートさにも魅了された。

これは小学生に魅せたい良質な映画といえよう。

星野源の主題歌「異世界混合大舞踏会 (feat. おばけ)」も良曲で大満足でした。

※映画.comより画像引用