『地下室のヘンな穴』12時間進んで3日若返る穴、あなたは入りますか?

地下室のヘンな穴(2022)
原題:Incroyable mais vrai
英題:Incredible But True

監督:カンタン・デュピュー
出演:アラン・シャバ、レア・ドリュッケール、ブノワ・マジメル、アナイス・ドゥムースティエetc

評価:80点



おはようございます、チェ・ブンブンです。

なんと、カンタン・デュピュー新作”Incroyable mais vrai”こと『地下室のヘンな穴』が9/2(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国公開が決まりました。カンタン・デュピュー監督といえば、殺人タイヤの映画『ラバー』や革ジャンが語りかけてくる映画『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』などといった変わった映画で知られており、今までは特集上映でしかお目にかかれなかった。彼は90分以内で変わった世界観を描く達人である。

一見すると出オチな映画でありながらも、人間の心理に迫る物語を滑り込ませることを得意としており、『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』では「人にどうみられたいか」に固執する男の薄っぺらい人間像を、語りかける革ジャンを通じて描いていた。巨大バエを育成する『Mandibules』では取らぬ狸の皮算用のバカバカしさを滑稽に描いている。さて、今回の『地下室のヘンな穴』は『Wrong』に通じる空間を使った映画となっているようだ。

ロングライドさんのご好意で一足早く観賞しましたので感想を書いていきます。

『地下室のヘンな穴』あらすじ

カンタン・デュピュー監督の映画『地下室のヘンな穴』が9月2日から新宿ピカデリー、 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。緑豊かな郊外に建つモダニズム風一軒家の下見に訪れた中年夫婦のアランとマリーは、地下室に「12時間進んで3日若返る」という「穴」がある新居に引っ越すが、やがてこの穴が2人の生活を一変させていくというあらすじだ。アラン・シャバ、レア・ドリュッケール、アナイス・ドゥムースティエ、ブノワ・マジメルが共演。

CINRAより引用

12時間進んで3日若返る穴、あなたは入りますか?

「12時間進んで3日若返る穴」を地下室に持つ不思議な家にやってきた夫婦。不動産屋の誘いに従い、恐る恐る地下室の穴へ入ると、何故か二階から出てきた。3日若返るといっても全く実感がわからないまま、二人はこの家に住むことになる。

本作は、「12時間進んで3日若返る」という絶妙にメリットを感じ辛い穴を発明したことが最大の功績といえよう。3日は12時間より長い。しかしながら、3日若返ったところで見た目はほとんど変わらない。若返るなら数年単位でやりたいものだ。もし、1年若返ろうとしようものなら、122回穴に入る必要があり、それは61日時間が進むことになる。その労力と経過する時間は馬鹿にならない。しかし1回12時間と言われると恐る恐る入りたくなってしまうであろう。この中毒を引き起こしそうな仕組みを、現実に存在しないところから生み出したところにカンタン・デュピューの腕が光る。

実際に映画ではどうなっているのだろうか?

マリー(レア・ドリュッケール)は、何度か入り夫アラン(アラン・シャバ)に「どう?若くなった?」と訊く。しかし9日分しか若くなっていない彼女に変化を感じられない。そして、穴に入らない方が良いと忠告する。しかし、与えられた肉体。老化する肉体により人生の道も狭くなり、退屈さを感じている彼女は、若い肉体を手にすることでモデルの道が開けるのではと眼を輝かせている。そして暴走していくのだ。

本作は、精神はそのままで、外見だけを変えようとすることによって引き伸ばされる虚無の時間というのを2つのギミックで象徴的に描いている。しかし、どちらのギミックも何も知らずに観て驚いて欲しいので、ここでは2つ目のギミックをボカして紹介する。本作ではマリー&アランの他にもう一組の夫婦が登場する。前者は時間の経過という概念的変化によって欲望に取り憑かれた者の暴走を描いている。それに対して後者は、物理的変化を通じて欲望に取り憑かれた者の暴走を描いている。

どちらも与えられた肉体から解放されることによって新たな自分を獲得しようとするのだが、その負荷の高さによって精神が崩壊していくのだ。人間とは、精神と肉体が重なりあって個人が生まれてくる。しかし肉体の変化や急激に変わる時間の流れで精神と肉体が引き剥がされる時、人は正気を保っていられるのだろうか。

他の監督であれば2時間近くかけて壮大な時間の物語にするところをサクッと75分程度にまとめ上げる。

そして、我々に問いかける。

あなたはこの穴入りますか?

9/2(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて公開。

是非、カンタン・デュピュー監督の不思議な世界に足を踏み入れてみてください。

※映画.comより画像引用

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