【Netflix】『ザ・カップヘッド・ショウ!』破壊仕掛けのスペシャリスト・カップヘッド

ザ・カップヘッド・ショウ!(2022)
The Cuphead Show!

製作総指揮:デイヴ・ワッソン、チャッド・モウルデンハウアー、ジャレッド・モウルデンハウアー
出演(日本語吹替):花江夏樹、小野賢章、中井和哉、宝亀克寿、堀内賢雄、佐倉綾音、手塚秀彰etc

評価:80点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

2021年、RTA in Japanで「CUPHEAD」の存在を知った。1950年代以前のディズニーアニメや「トムとジェリー」のエッセンスを抽出したクラシカルなキャラクターを操作する荒唐無稽なアクションゲームである。見た目の可愛らしさに反して弾幕ゲームさながらのエゲツない敵の攻撃、そしてシームレスに動くキャラクターたちに驚かされた。そんな「CUPHEAD」がアニメ化され現在Netflixで配信されている。早速観たのですが、これがとても面白かった。

少しネタバレありの感想です。

『ザ・カップヘッド・ショウ!』あらすじ

元気すぎるカップヘッドと、ちょっと弱気なマグマン。息ぴったりの兄弟がドキドキの大ぼうけんをくり広げる、大人気アクションゲームを基にした楽しいアニメ。

Netflixより引用

破壊仕掛けのスペシャリスト・カップヘッド

1950年代以前のクラシカルなアニメは、世界恐慌から生まれたスクリューボールコメディのエッセンスを引き継いでいるといえる。世界はクソであり思い通りにいかない様子を荒唐無稽などんちゃん騒ぎで描く。そのデフォルメされた混沌は現実とはかけ離れた動きを実現できるアニメとの親和性が高く、「トムとジェリー」が生み出されたと考察することができる。『ザ・カップヘッド・ショウ!』はまさしく、その流れを踏襲しており、演出の手数の多さと解像度の高さに脱帽する。

第一話では、怠け者のカップヘッドがマグマンを連れて、誘惑の向くまま遊園地に行く。そして延々とボールのゲームに挑戦する。穴に入るとアタリなこのゲームにおいてカップヘッドは才能を発揮する。どんな方向に投げても必中でアタリの穴に入る。しかし、これは罠であり一つでも外すとデビルに魂を抜かれてしまうのだ。マグマンが、この遊園地が罠であり、来園者が次々と抜け殻にされていく様子に気づき、カップヘッドを説得する。やがて、彼はミスを犯し、デビルに追われるようになる。ここからのシークエンスが華麗であり、オーソン・ウェルズの『上海から来た女』の終盤を引用し、カップヘッドをカラクリ屋敷へと誘導する。『上海から来た女』は実写映画であるが、アニメとの相性の良さもある。鏡の間へ誘導し、ひたすら逃げる二人を通して観客は気づく。こいつらは不幸発生装置だが、相手側も不幸に陥れる存在だと。

これは本作において重要な要素である。必ず災難を引き起こすのだが、デビルや悪役ですらカップヘッドの不幸に巻き込まれて大惨事に陥るのである。キングダイスは指名手配となっているカップヘッドをデビルに引き渡そうと、クイズを出すがトンチンカンな回答を言う。ダイスを回転させようとするがダイスすら破壊してしまう。デビルに至っては、カップヘッドのせいで監査に口煩く指摘を受ける。直接捕まえようとすると、透明なセーターに阻まれたりして上手くいかないのだ。

空間造形に関しても興味深いものが多い。第二話「ベイビーボトル」では、喧嘩をしちゃいけないよと忠告という名のフラグを立てるケトルじいさんに対して、早々に大乱闘を繰り広げるカップヘッドとマグマン。喧嘩のオブジェクトがスーパーボールのような弾力をもって上下左右に飛来する視覚的面白さがある。カエルのキャラクター・リビー&クロークスと戦うでは、彼らのパンチが船に穴を空け浸水を引き起こす中、火災も発生する。炎と水によるスペクタクルが船に襲い掛かる中、カップヘッドたちがアイスを食べようとする異常な光景が広がっており、アニメならではの水と油の共存に興奮する。

12話あるため惜しいエピソードも残念ながら存在する。第7話「コンサイだらけで大めいわく」では、ケトルじいさんの畑を野良の巨大野菜たちが侵略する話であり、畑の水分を防衛することが話の主軸となる。玉ねぎの涙で奪われた水分を回収するのだが、ここは塩分入りの水に繋げカルタゴのように不毛の土地になってしまい巨大野菜もろとも死ぬエンドでも良かったのではと思ってしまった。

とはいえ、少しくすみがかかったクラシカルなタッチで、縦横無尽に調和を乱しまくるカップヘッドたちに腹を抱えて笑った。シーズン2を作る匂わせを含みながら終わった第12話。続きが作られることを楽しみにしよう。

※Netflixより画像引用