『アヘドの膝』圧力かける男は母性を求める

アヘドの膝(2021)
Ahed’s Knee

監督:ナダヴ・ラピド
出演:ヌル・フィバク、Avshalom Pollak etc

評価:40点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第74回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、第22回東京フィルメックスでも上映されたものの、賛否が真っ二つに分かれた『アヘドの膝』。映画仲間の間でも、極端に拒絶反応を示す人がいる恐ろしい映画らしい。ということで観ました。

『アヘドの膝』あらすじ

イスラエル人映画監督のY。自分の過去作の上映会に招かれた彼は、国から承認を受けた話題についてしか話せないことをそこで告げられるが……。前作『シノニムズ』がベルリン映画祭で金熊賞を獲得したナダヴ・ラピドの新作。カンヌ映画祭で審査員賞を受賞した。

※第22回東京フィルメックスより引用

圧力かける男は母性を求める

膝をビリッと引き裂く。強烈に強調される膝。ガンズ・アンド・ローゼズ「ウェルカムトゥザジャングル」が歌われる。インパクト抜群なミュージックビデオのテンションがこの映画の軸となる。イスラエルの加害性を告発しようとする映画監督Yは地方都市にやってくる。政府から映画製作の生殺与奪を握られている彼は、指定された話しかできないことに苛立ちを抱えている。政府から送られた刺客である職員ヤハロムをなんとかして自分の意のままにコントロールしようとする。

前半は、カッコいい撮影が特徴的であり、車の中を運転手→Y→ナッツ→Y→窓→運転手の順で、機械運動のようにカメラが動いたり、ヘッドホンで音楽を聴くYに合わせて空や地面をグルグルカメラを回す。狭い空間で兵士たちが躍動感あふれるダンスを始めるバキバキに決まったカメラワークが魅力的である。

しかし、終盤にかけてYが至近距離でヤハロムを言葉責めしていくところがあまりにも強烈で、ハラスメントに遭ったことのある人はフラッシュバックする可能性があるほど凄惨なシーンとなっている。しかも、あれだけ暴力で女性をコントロールしようとした男が、母性愛を求めて泣き始め、被害者ヅラをし始めるのだからタチが悪い。

本作は正義の戦士として活動する男が、暴力を振るい、自分が窮地になると被害者ヅラをする有害性を告発した作品であり、それをユニークなカメラワークで演出する点、『シノニムズ』にも通じるナダヴ・ラピドの作家性が発揮された作品なんだけれども、二度と観たくないし吐き気が起き、気分が悪くなった映画であり到底じゃないけれど好きになれない作品でありました。

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