『死刑にいたる病』癒しを与え、悪を与え、操る男

死刑にいたる病(2022)

監督:白石和彌
出演:阿部サダヲ、岡田健史、岩田剛典、宮﨑優、鈴木卓爾、佐藤玲、瀧川英次(赤ペン瀧川)、大下ヒロト、吉澤健、音尾琢真

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

自分は映画評論家や映画ライターよりも、非映画系動画配信者が突然語る映画話を参考にすることが多い。それは、映画を軸にしている人から出てこないような感想が浮かび上がったり、映画沼に浸かってしまうともう触れることのできない観点からの言語化を観測できたりするので積極的に探して観るようにしている。先日、VTuberのでびでび・でびるが「映画予定表 5月」の中で、興味のある映画を語っていた。


TITANE/チタン』が入っていたりして興味深かったのですが、『死刑にいたる病』の語りに惹き込まれた。24件の殺人容疑で逮捕された男が「1件だけは俺やってないから調べてくれ。」と頼まれる話なんだけれど意味がわからん。と率直な感想を述べる。その後、どうも主人公が通っている大学と理想が違って鬱気味らしいのだが、それだけでここまでするかねぇと可愛らしい声で饒舌に語っていて一気に観たくなってきた。白石和彌監督は真面目さが空回りしているイメージが強く、今回はパスしようかと思ったのですが観てきました。

『死刑にいたる病』あらすじ

「凶悪」「孤狼の血」の白石和彌監督が、櫛木理宇の小説「死刑にいたる病」を映画化したサイコサスペンス。鬱屈した日々を送る大学生・雅也のもとに、世間を震撼させた連続殺人事件の犯人・榛村から1通の手紙が届く。24件の殺人容疑で逮捕され死刑判決を受けた榛村は、犯行当時、雅也の地元でパン屋を営んでおり、中学生だった雅也もよく店を訪れていた。手紙の中で、榛村は自身の罪を認めたものの、最後の事件は冤罪だと訴え、犯人が他にいることを証明してほしいと雅也に依頼する。独自に事件を調べ始めた雅也は、想像を超えるほどに残酷な真相にたどり着く。「彼女がその名を知らない鳥たち」の阿部サダヲと「望み」の岡田健史が主演を務め、岩田剛典、中山美穂が共演。「そこのみにて光輝く」の高田亮が脚本を手がけた。

映画.comより引用

癒しを与え、悪を与え、操る男

志望校に行けず、授業崩壊を起こしている大学で燻っている雅也。葬式で親戚が集まる空間でも居場所がなく、精神が落ち込んでいる中、思い出の人から一通の手紙が来る。DVのシェルターとして通っていたパン屋さんの榛村はなんと連続殺人鬼で現在裁判中の身であった。そんな榛村は雅也に自分が唯一やっていない殺人について調査してほしいと頼む。引っかかるところ抱きつつも、彼は調査を開始し、次第に点と点が繋がっていく。

展開が早い映画が多い中、本作はじっくり時間をかけて冤罪調査を描いていく堅実な探偵映画となっている。PG12とは思えない程、グロテスクな拷問シーンが多く、阿部サダヲが人畜無害な顔からニヤリと不気味な笑みを浮かべ、爪を剥いだりするところで本作のキャスティングの成功は保証されたもの。探偵映画ではあるが、実際には弱っている男の心の隙間に入り込み、徐々に操っていく様子に力点を置いている。この描き込みがとても良く、榛村は決定的なワードを言わず、対話の中で雅也から必要なワードを言わせる。そして、いつしかカウンセラーのように雅也の闇を受け入れる器となりそのまま主導権を握っていく。この心理学的アプローチで確実にマインドコントロールしていくところを時間かけて描いていくのだ。

本作は間の映画でもあり、阿部サダヲだけでなく雅也の父親役を演じた鈴木卓爾からも恐ろしいものを引き出している。DV男という設定ながら直接的な暴力は描かない。ただ、その空間にいて一言キツい言葉を吐いたり、ビールを立ちながら飲む。それだけで強烈に重い空気が流れるのだ。呪術廻戦かなと思うほどの負のオーラを纏い、そこにいるだけで暴力性を滲み出させる鈴木卓爾の俳優としてのテクニックの高さに脱帽した。

確かに演出上の問題点はある。例えば、法律事務所に潜入した雅也は担当職員に「外部に流出したらまずいぞ。」と言われる場面がある。次のシーンでは榛村の資料を渡された雅也がパシャパシャスマホで写真に撮り、関係者取材の中で酒に酔いながら重要写真を見せ始めるのだ。雅也は大学生だからその行為自体は正解だが、その法律事務所のセキュリティ意識の低さには唖然とした。せめて、バレるかバレないかサスペンスの中で資料をスマホに撮るアクションを入れてほしかったなと思う。

P.S.でびでび・でびるといえば、クイズ王・古川洋平をゲストに招いた「悪魔と朝飲酒を…… #11 ゲスト:古川洋平【でびでび・でびる/古川洋平】」が非常に面白い。淀みなく繰り出されるボケとツッコミのグルーヴは初対面の会話とは思えないほど完成されたものになっていました。