『Casablanca Beats』歌え、踊れ、戦え!

Casablanca Beats(2021)
原題:Haut et fort

監督:ナビル・アユチ
出演:Ismail Adouab,Nouhaila Arif,Samah Baricou,Abdelilah Basbousi,Anas Basbousi etc

評価:80点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

第74回カンヌ国際映画祭にて出品されたモロッコ、フランスの合作『Casablanca Beats』を観ました。ナビル・アユチ監督といえば、「死ぬまでに観たい映画1001本」に掲載された『アリ・ザウア』やある視点部門に出品された『Horses of God』で有名な監督である。以前、紹介した夢見るニューヨーカー・ローラがエジプトでダンス修行する『Whatever Lola Wants』も彼の作品だ。『Casablanca Beats』は日本公開猛烈希望な魂揺さぶる作品でありました。

『Casablanca Beats』あらすじ

Anas, a former rapper, is employed in a cultural centre. Encouraged by their new teacher, the students will try to free themselves from the weight of traditions to live their passion and express themselves through hip hop culture
訳:元ラッパーのアナスは、カルチャーセンターに就職する。新しい先生に励まされながら、生徒たちは伝統の重さから解放され、ヒップホップカルチャーを通して自分たちの情熱を生き、表現しようとするのだが……。

IMDbより引用

歌え、踊れ、戦え!

厳つい顔した男Anasがアートセンターにやってくる。おもむろにスプレーで壁をペイントし始め、センター長に怒られる。そんな彼は若者にラップを教えにやってきたのだ。少年は拙いリリックを披露する。クラスメイトはブーイング。Anasは「俺はそんな曲買わないね」と言う。「だって誰もリスペクトしてくれない。」と言えば、「では、歌詞を変えようとしてきたか?」と辛辣に言い返す。次の青年は、それなりに上手いリリックを披露する。だが、これに対して「それで問題解決したか?」と斬り捨て泣かせてしまう。だが、授業の終わりに、女学生が披露する「アラビアン・ナイトでもない、バービーでもシンデレラでもない。危ない橋渡って行こうぜ!」と魂揺さぶる歌詞に、少し態度が変わる。

Anasはその人にしか語れないリリック。社会に対する怒りを歌って、踊って、戦うことに意味があると考えているのだ。だから二人の生徒の誰でも言えそうな歌詞を斬り捨てたのです。このアートセンターには、親に内緒で通っている者もいる。職探ししていると親を騙しながらこっそり通う女学生がいたりする。センター長は、揉め事になると運営に支障を来すため、そういった生徒をよく思っていないが、Anasは圧をかけて居場所を維持しようとする。

教室では激しい議論が行われる。モロッコ社会にある男尊女卑、男は男として生まれたことが特権になっていることを議論の中で知る。教室の中では対等なのだ。どんどん熱気づき、初日に泣いた子も、ボイスパーカッションで積極的に関わっていく。その様子にAnasから笑みが溢れる。生徒のためにできることはなんだろうか?と即席録音スペースを作り、個性を伸ばしていく中で現実が聖域を壊しにやってくる。

『Casablanca Beats』は何故、音楽をやるのか、何故人はラップで歌うのかを突き詰めた傑作だ。激しいディスカッションの中で社会に対する怒りが言語化され、それが鋭いビートと身体表象によって形成されていく。現実を変えることは難しい。でも、音楽で変えられるかもしれない。現実を知っている先生は、厳しい顔の下で、若者に戦う武器を授けようと静かに努力する。確かに荒削りな作品だ。早々に、Anasは生徒と打ち解けるし、舞台もほとんど教室だったりする。なので人によっては物足りない作品かもしれない。しかしながら、拙いながらも自分の言葉の杖を鍛錬し、押さえ込もうとする親や社会から脱しようとする魂の叫びは私の心をざわつかせました。

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※IMDbより画像引用